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norn.  作者: 羽衣あかり
“白狼と少女”
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4.情報

「なぁ、何か礼をさせてくれ!」


 そう言われて、ノルンは少し困ってしまった。

 ノルンからしてみれば本当に礼をされるようなことをしていないと思ったためだ。

 ノルンがそのまま伝えるとアトラスは首を振った。あのままでは報酬は貰えなかったと。そしてノルンの言葉が嬉しかったから何か礼をさせて欲しいと。

 そこまで言われてノルンは少し考え込んだ。


「何でもいいぜ!さっきみたいにノルンが望む報酬のクエストに俺が行って報酬をノルンに渡す、みたいなのでも」


(……クエスト。…報酬)


 アトラスの言葉を胸の内で繰り返しながらノルンは黙って少し考え事をする。

 すると何かを思いついたように少しはっとしてアトラスを見た。


「アトラス。貴方は大陸を旅していますか?」

「ん?まぁそんなとこだな」


 ノルンはアトラスの言葉を聞いて言うか言わないかを迷っているようだった。

 しかし数秒後、何処か意を決したようにアトラスの瞳を見つめると、その小さな口を開いた。


「…シリウス・スノーホワイトという人物の名を聞いたことがありますか」


 木々が風により揺れる。

 立ち止まったノルンとアトラスの間を爽やかな若葉が舞った。


「…シリウス……悪いな。聞いた事ねぇ」

「…そうですか」


 ノルンはその言葉にきゅ、と胸の前で手を握った。

 初めから分かっていた。それでも期待してしまった心をどこか隠すように。

 その表情は無表情なのにどこか悲しく見えた。

 そいつを探してるのか?、とアトラスに問われノルンは静かに頷いた。


「…そっか。知らなくて悪いな」


 深くは詮索してこないアトラスに感謝しつつ、ノルンはゆるく首を振る。


「いいえ」

「その他に何か知りたいことはあるか?」


 そう言われ、ノルンはもう一度考え込む。

 そして何か思いあたったことがあったように、もう一度アトラスと目を合わせる。


「…何処かで白狼の話を耳にしたことはありますか?」

「白狼?」

「はい」


 たまたま何処かでその様な依頼を見たでも、人の話で聞いたことでも何でもいいとノルンは言う。

 再び歩きながらアトラスは記憶をめぐらす。

 そしてあ、と何か思い当たることがあると言うようにノルンを見た。


「そういえばここに来るよりもっと北西のキオンの村で、白いウルガルフについて聞いたな」

「本当ですか」


 アトラスがそう言った瞬間、宝石のようなグランディディエライトの瞳が大きく揺れて見開かれる。

 そして今までにない勢いでノルンがアトラスに迫った。

 急にぐっと顔を近づけてきたノルンにアトラスは驚く。いつになく真剣な瞳でノルンがアトラスを見る。


「待て待て!落ち着け!」

「…申し訳ありません」


 ノルンはアトラスに言われはっとするとアトラスから顔を離したあとで小さくふぅと息を吐いた。


「それはどの様なお話なのですか?」

「詳しいことは分かんねぇけど確か夜に村がウルガルフに襲われたんだと」

「それは単独でですか?」

「あぁ。一体のデカイやつだったらしい」

「村を…そうですか」


 ノルンはアトラスの言葉に何か考えているようだった。そして礼を言う。


「アトラス。ありがとうございました」

「ん?おいおい。まさかこれだけでいいのか?」


 目を丸くするアトラスにノルンは頷く。


「はい。私一人では知ることが出来ませんでしたから」


 ノルンに先程の勢いはなくなり、落ち着き払った様子でそう言った。


「まさか倒しに行くのか?」


 アトラスがそう聞けば、ノルンは言葉を選びあぐねて曖昧に頷いた。

 余計にアトラスが驚く。

 ウルガルフとは集団で行動する狼の様な魔物だ。

 集団で狩りをするハンターで、攻撃力と凶暴性を兼ね備えている。ディーグルと同列のランク付けがされている。

 それを目の前のまだ少女であるノルンが討伐しに行くというのだ。


「ま…待て待て!ウルガルフはディーグルと同じくらい凶暴なんだ」

「はい。存じています」

「…ッ…」


(…まじ、かぁ)


 揺るがないノルンの瞳にアトラスは息を呑む。

 そして少しの間を開けて、はぁ〜〜、と大きなため息をついた。

 首を傾げるノルンにアトラスは向き直ると言った。


「分かった。俺も行く」

「…ぇ」


 何故、とノルンの顔が物語っている。


「いいや。ただ助けてもらった礼は返さねぇとな!」


 そしてアトラスはそう言うとまた二カッと瞳を光らせて笑うのだった。

 ノルンには何がなにやらさっぱりだった。

 白狼の情報を聞くことが出来ただけでノルンの心拍は内心かなり高鳴っていた。

 それなのにそこまでアトラスが着いていくという。


 何故そこまでしてくれるのだろう。

 本当にそこまでしてもらう程のことはしていないのに。

 アトラスが着いてくるということ、それはつまり短い間ではあるものの一緒に旅をするということだ。


(…私と一緒に居ても楽しくないのに)


 ふと不安な気持ちが溢れてきた。

 会ったばかりのアトラスはまだ自分のことを知らない。それは自分も同じなのだが、アトラスは決して悪人ではないだろう。


 悩むノルンを置いてアトラスはもう決めた、という様にスッキリしていた。


「よし!今からでも行くか?」


 ニヤリと笑いとんでもないことを言うアトラスにノルンは首を振った。


「一度帰ります。そもそもキオンに行かせてもらえるかもわかりません」

「ん?親か?」


 アトラスのその言葉にノルンは本当に少しだけ初めて微笑んだ。

 そのあまりの美しさにアトラスは目を奪われる。


「…恩師です。私を育ててくれた」


 その恩師、という人物をノルンが心から大切に思っているということはすぐに分かった。

 アトラスは少ししたあとでそうか、と頷くとノルンと一緒にフォーリオへと向かうのだった。


「アトラス、こちらへ来てしまっていいのですか?旅をしているのでは…」

「いいんだ。今は自由気ままに動いてるんだ」

「そうですか。それは素敵ですね」

「…まぁな!それで、どこが故郷なんだ?」

「フォーリオです」

「…フォーリオっていうと星の降る街か」


 ノルンの言葉を繰り返しそう言うアトラス。

 しかしすぐにん?と何かを考えるように眉を寄せた。


「フォーリオっていうと…」

「どうかしましたか?」


 ノルンが不思議そうにアトラスに声をかける。

 しかしアトラスは考えるのをやめたと言うように「やっぱり何でもねぇ!」と言って笑うのだった。


 そんなアトラスをノルンは不思議そうに見ていた。






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