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norn.  作者: 羽衣あかり
“咎人と少女”
258/260

257.詳細不明の謎の魔導書

 ノルンはレオとフローリアに家の前まで送ってもらうと、二人の背中を見送り終わったところで家の中へと入った。

 気づけば家を出た時よりもそれなりに時間が経っていて、既に暖炉の火は消えて、暖炉の前に寝そべっていたアトラスもポーラも居ない。

 ただそこにブランだけが静かな空間の中で横たわり、ノルンが帰ってくるなり音もなく体を動かすとノルンの身体に頭を擦り寄らせた。


 ノルンはブランの頭に手のひらを乗せると優しく撫でた。

 手元のランタンを机に置き、それからゆっくりと部屋の中を見渡す。


 窓の外にちらりと視線を向ければ気づけば空には少しずつ雲が立ち込めて、月はすっかり覆われてしまっていた。


 これから再び雪は降るだろうか。

 ノルンはレオに借りたマフラーやコートやらを脱ぎつつ、壁にかけ終わるとふるりと小さく身体を震わせる。


 魔法で暖炉に再び火を灯せば、瞬間的に暖かな空気が肌に染みる。

 どうやらアトラスやポーラは先に寝ているようだ。

 またアオイも既にこの場にいないことを考えれば、先に部屋に戻ったのだろう。

 それともどこか外へ出ているのだろうか。

 此処へ帰ってきてからというもの、アオイはよくアランと会っているようだ。

 しかしそれを知っていたとしても、その理由をノルンが詮索することもなければアオイ自身特に何かを言うこともなかった。

 けれどノルンはそれで良いと思っている。

 アオイが話してくれる事ならば何であれ耳を傾けるが、そうでないのであればノルンから深く追求することはしなかった。


 それにしてもアトラスは暖炉が消えたところで目を覚まし身体を震わせながら寝具に入ったのだろうか。

 脳裏でそんなことを思い、ふとアトラスの様子が想像できて、無意識にノルンの口元は微かに緩む。

 アトラスは特に寒さに耐性がなく、ノルンは余っている部屋の中から、暖炉がついている部屋をアトラスに貸していた。

 そして特にあるだけの毛布やかけるものをアトラスの部屋に置いておいた。


 パチパチと火の粉が爆ぜる音が心地よい。

 暖炉に手をかざせば、既に冷えきっていた足先も、指の先も心地よい温度が返ってきていた。


 ノルンは手を擦り合わせながらふと、先程の出来事に想いを馳せた。

 それは母親の墓に備える花を摘みに行った時のことだった。

 星辰祭が行われるこの日、ノルンには毎年欠かさずに行っていることがあった。

 それは、まさにノルンが森の中にまで入って池へ訪れた理由だった。

 ノルンは母親が息を引き取ったとされる池で、毎年この時期になると、地に咲き誇る星鈴蘭の花を摘みにいっては母親の墓に供えていた。


 今年はノルン自身旅に出るという出来事があったため、難しいかとノルン自身落ち込んでいたのだが、様々なことがあって自分の家に帰ってくる理由ができた。


 そして、今年はその池のほとりで、一人の人と出会った。

 それはシオンと自らを名乗った青白い肌とブルームーンの如き美しい瞳をを持つ男性だった。

 不気味な面に首元にファー、そして頭部には動物やらの耳がついたコート。

 初めはその異様な姿に怯えも感じたノルンであったが、少しばかり言葉を交わせばそんな恐怖心はいつの間にか消えてなくなっていた。

 シオンの話し方は物腰柔らかなものだった。

 落ち着いた話し声に、何処までも見抜かれてしまいそうな___どこまでも不安定に揺れる瞳が印象的だった。

 柔らかな白髪は顔の周りからふわふわと顔を出してどこか幼さを感じさせた。


 初対面であるはずなのに、凡そ初対面ではないとさえ、どこか感じてしまうような。錯覚をしてしまうようなノルンが出会ってきた人種の中で、彼は確かに不思議な存在だった。


 ノルンは暖炉の前からゆっくりと立ち上がると、机の上に大量に積み重ねられた何冊もの魔導書に視線をやった。

 今現在積み上げられている魔導書のほとんどは既に幼い頃に読み終えたものである。

 そろそろこの地を再び離れることになりそうだということもあり、近々山積みの本も元の場所に戻さなければならないだろう。

 ノルンは数冊の本をぱらぱらと捲っては、本を閉じ、また次の本へと視線を投げかける。

 そんな中、一冊の本を手にした時、ノルンは動きを止めた。

 一番下に置かれていた一冊の本を手に取ると、ノルンはその特徴的な本を見て分厚くも、古びた表紙を華奢な指でゆっくりと撫でた。


 かなりの年月がたったと思われる一つの魔導書。

 表紙中央には美しい宝石が取り付けられていて、光を受けてきらりと反射する瞬間は見るものの心をも奪う。

 ノルンは本の背表紙を撫で、表紙を開き数ページ、ページを捲ったことろで静かに本を開いた。

 所々破けている箇所も多い古い魔導書だが、その記録は現在でも聞いた事のないような魔法と魔法に関するもの全てについて綴られている。


(…あの時も、そうだった)


 ノルンがこの本と出会ったのは旅に出てからのこと。

 ノルンはとある森の中、一人の老人と出会い、病気の治療を行うことになった。

 その際治療薬を作ろうと、何種類もの薬を調合し、病を患った老人を助けようと試みたが、どれも上手くいくことはなかった。

 ただ、その中で、どのような偶然か、ある日突然その本はノルンの手元に表れた。

 期待をせずにノルンがページを捲れば、そこには現代の魔法体系では実現不可能とされる魔法が多く綴られていた。

 そして、結局その本のお陰で、ノルンは病気を患った老人を助けることができた。

 つまり、これは大昔に誰かが綴った魔導書なのである。

 ノルンのトランクの中身はノルンの家と大きく重なっていており、ノルンは幼い頃から住処としているこの家の本は全て読みつくしたと感じていた。

 そんな中気づけば手元に置かれていた魔導書はことある事にその驚異的な力でノルンを救い、助けを必要とする人物を救ってきた。

 まるで自分のことではないように感じてしまうが、事実だ。

 ノルンは何を思ったのか静かに胸に一冊の本を抱えると視線を腕の中の本に移して、それからもう片方の手でランタンを掴むと、ゆっくりと奥の扉へと足を進めたのだった。

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