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norn.  作者: 羽衣あかり
“咎人と少女”
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249.“出逢い”

 視界に映る何百もの花はまるで小さな花畑の様だった。

 丸みを帯びたフォルムがころんとなっているその花はとても可愛らしい。

 真っ白な花弁が雪の中に同化しているようで、していない。

 何故ならば月の光を受けた花弁が真珠のようにきらり美しい輝きを放っているからだ。

 自身の吐息の音しか聞こえないような森の中で、まるでちりん、ちりんという鈴の音が聞こえてきそうだ。

 ノルンがここまでやって来た理由は、一つは先程の池にやって来ること。

 そしてもう一つはこの可愛らしい鈴のような花をつみにきたこと。

 この花は星鈴蘭(せいれいらん)という名を持つ。

 すぐ側には先程の池があって、水面と星鈴蘭のオーロラのような輝きと、星空が美しい。

 神秘的なその光景にノルンは少しの間魅入られ、それからゆっくりと腰をおると、ローブの袖から指先を出してゆっくりと星鈴蘭の花を摘む。

 綺麗に咲いている所をこうして摘んでしまうのは少し心苦しい。

 星鈴蘭を摘む度に心の中で謝罪をしながらノルンは数本の星鈴蘭を腕に抱える。


 このくらいで充分だろうか。

 腕の中の花の束を見てそう思いゆっくりと腰をあげる。

 するとその時、冷たい風がノルンの頬をサァーっと撫でた。

 柔らかな髪が風に釣られるように舞う。

 思わず瞳を閉じてしまったノルンは風が止むとゆっくりと瞳を開けた。

 長いまつ毛がふるりと震える。

 そこでノルンは風が吹いてきた前方を見ようとして、思わずゆっくりと開きかけていた目を見開いた。


(………誰か、いる)


 先程とは何かが違うという違和感。

 池のほとりにある大きな岩。

 そこに、月明かりに照らされるようにして人のシルエットが浮かび上がる。

 魔物ではない。

 明らかにその人物は岩に腰をかけて池の方向を向いて座っている。


 一体何者なのか。

 何時から、そこにいたのか。


(………全く気配を感じ取ることができなかった)


 近くに何かが接近すれば魔力感知ですぐに分かる。

 しかし視覚でその姿を捉えるまでノルンはその人物が近くにいることを確認できなかった。


 ___恐らく、只者では無い。

 それは、身体が、脳が、理解していた。

 しかし不思議なことに警戒人物であれば感じる恐怖や、警戒心を、ノルンの心は感じていない。

 早くここから去らなければいけないと思う反面、彼が振り返る瞬間を待っていたいような、そんな不思議な感覚だった。


 すると、ゆっくりと岩に座っていた人物が、ノルンの視線に気づいたのか、上半身をゆっくりとノルンの方に捻った。


 今すぐに逃げた方が良い。

 それは理解しているのにどうしても、足が動かなかった。

 その人物は体を捻るとその顔をノルンに向けた。

 ノルンはその瞬間に音もなく小さく息を呑む。


「………………」

「……………………ん?」


 その顔は仮面に覆われていた。

 真っ白な面につり上がった瞳、それからにこりと笑っているような、口元が釣り上げられたように描かれた口。

 月明かりを背にしてノルンを見つめるその仮面はひどく、不気味だった。


 大きなマントを羽織って、フードを被っているその人物は見るからに不気味で怪しい。

 フードには犬や猫やらの耳のようなものがついていてる。


「………おっと。お客さんが居たとは」


 その人物はノルンを視界に捉えると、そう告げた。

 その口調は柔らかく、威圧的なものではないが、その声色は男性のものであった。


 ノルンはその人物から視線を離すことができない。

 口も開くことができず、ただ相手を注意深く観察して口を結ぶ。

 そんなノルンを前に男は再び言葉を連ねる。


「…………これは……可愛らしいお嬢さんだ。こんな夜更けに一人でこんな所に来たのかな。ここは魔物も出るし危ないよ。早く家へ帰った方がいい」


 男はそう言った。

 その言葉や、声色はノルンの身を本当に案じているようで思わず気を抜きそうになってしまう。

 それ程までに男はノルンが今まで出会ったことのない、不思議な雰囲気を持っていた。


 気が付けばノルンは静かに薄い唇を開いていた。


「…貴方は…誰ですか。どうして、此処にいらっしゃるのですか」


 そして、そう口にしていた。

 男はノルンが話しかけてきたことに少し驚いたようだった。

 仮面を被っているので彼の表情は窺えないが、それでも、一拍おいて男が嬉しそうに笑ったような、そんな気がノルンにはした。


「………ふっ。よっと。……そっちに行ってもいいかな」


 男は全身の向きをノルンに変えると首傾げてそんなことを言う。

 断るべき。そう、理解している。

 のに、気づけばノルンは静かに頷いていた。


「はい」

「ありがとう」


 そう言えば男は軽々と岩からジャンプして身軽に地面に降り立つ。

 そしてゆっくりとノルンに向かって一歩一歩と歩んでくる。

 月明かりを逆光に近づいてくる男はやはり見た目だけならばとても不気味で、特に温度のわからぬ仮面が少し恐ろしい。

 ノルンの数歩先までやってきた時、男はゆっくりと立ち止まり、腕を上げると指先を仮面にかける。


 そして、ゆっくりと仮面を顔からずらす。


「初めまして。僕は…シオン。___シオンっていうんだ」


 彼は、そう言って静かに微笑んだ。

 この出会いが、運命を大きく変えることになるとはこの時は露知らず___。

 ノルンは静かにその微笑みを瞳に焼き付けるように見つめ続けたのだった。



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