247.もう一つの贈り物
白い小さな箱。
金色の線が流れるように装飾された箱。
アオイの手の中に収まり、差し出されるそれをノルンは驚いたように見つめる。
「これを…………私に……」
「…うん」
ノルンが一度顔を上げて蒼の瞳で少し驚いたようにアオイを見つめればアオイはどこか緊張したような面持ちで頷く。
彼の赤く染まった頬が寒さからなのか、緊張からなのかノルンには到底知ることはできない。
差し出された箱に驚きつつもノルンは指先を伸ばすとそっと箱を受け取る。
箱はとても軽かった。
両手で箱を受け取り、ノルンは静かに箱を見る。
「…開けてみても、いいでしょうか」
ノルンがそう口にすればアオイはもう一度静かに「うん」と零して頷いた。
アオイからは先程の食事の際に花束を受け取った。
淡い青色の花びらが美しい花だった。
それなのに、アオイはもう一度贈り物だと、そういってこの箱を手渡した。
一体何故…そして、何を贈ってくれたのか。
ノルンは冷えた指先で箱の蓋に手をかけるとゆっくりと蓋を外した。
そして中に入っていたものを見て静かに目を見開くとゆっくりと顔を上げた。
「…アオイさん…これは………」
ノルンの手元の箱の中に入っていたのは美しいストレートブルーのベルベットのリボンだった。
ノルンが顔を上げればそこには眉を下げて困ったように微笑むアオイがいた。
「…うん。…ノルンちゃんの誕生日のプレゼントにと思って」
「…贈り物なら先程…美しいお花を…」
「うん。あの花束も贈り物で間違いではないんだけど…………」
そこまで言うとアオイは少し居心地が悪そうに視線を逸らしてそれから、困ったように小さく微笑んだ。
「…それは…以前ある街で見かけて………気づけば買っちゃってて。…………ノルンちゃんに、絶対に似合うと思ったんだ」
そう告げるアオイは少し照れくさそうに微笑む。
その様子にノルンは未だ驚いた表情を浮かべて、それから手の中のリボンに視線を戻すと柔らかな折り畳まれたリボンを片手にとった。
柔らかな触り心地の良い手触りに深みのあるブルーが美しい。
(………アオイさんは…これを…私のために………)
装飾品など普段身につけることは滅多としてない。
縁がなかったし、特に必要と感じることもなかった。
しかし今、不思議なことにノルンの胸は小さく音を立てていた。
ノルンが静かにリボンを見つめて黙っているとアオイは段々と不安げな表情をして、そろから焦ったように口を開いた。
「…ご…ごめんね…ノルンちゃん…!僕、ついノルンちゃんの事を考えずに贈っちゃったけど…そのいらなかったら…全然っ………」
そこまで口にしてアオイは思わず目を見張って言葉を止める。
ノルンは静かに小さな箱を両手で胸に抱き抱えていた。
「………いえ…………いいえ。………アオイさん」
薄い唇が開かれか細い声が漏れる。
その度に白い吐息が漏れて溶けていく。
アオイは静かに目を見開いた。
ノルンは眉を寄せて、それから瞳を細め、口角を小さく上げていた。
美しい夜空が混じり合う瞳がきらきらと輝きを放つ。
僅かに染まった頬は寒さからなのか、彼女自身によるものなのか、アオイには分からない。
その瞳はゆらゆらと揺れて胸元の小さな箱に注がれていた。
「………胸が…いっぱいというのは………この様な時の事をいうのですね。…感情が高まって収まりきらない時。…感動、歓喜………」
ぽつり、ぽつり。
少女は小さな声で呟く。
それから僅かに顔を上げてアオイを見る。
透き通る青と夜空が交わる。
「………とても、……………とても。……嬉しいです。アオイさん」
___少女は微笑んだ。
雪の中、一輪の花がふわりと蕾を開いたかのように。
___少女は美しかった。
この世のものとは思えぬほどに。
アオイは声も出せずに息を呑んで目を見開く。
それから少しの間幻か現か、その狭間をさ迷って。
しばらくするとゆっくりとその表情を和らげたのだった。その表情はどこか少し、切なくて。
アオイは細めた瞳の淵を一瞬拭うと、今度は柔らかな、心から嬉しそうな微笑みを浮かべた。
「…気に入ってもらえて…、よかった」
「…はい。本当にありがとうございます。…大切にします」
ノルンがそう言えばアオイは嬉しそうに頷く。
「…しかし普段…あまり装飾品を身につけたことがなく…」
どのようにして使用すればよろしいでしょうか。ノルンは少し困ったようにアオイに問う。
「そっか。それじゃあノルンちゃんが良かったら、僕がノルンちゃんの髪につけてもいいかな」
するとアオイは柔らかな笑みを浮かべたまま少し首を傾げた。
ノルンはあまり理解していないまま、こくりと頷く。
そしてリボンをアオイに手渡した。
アオイはリボンを受け取るとノルンの背後に回り、ノルンの柔らかな髪の束を少し手に取った。
それから顔のサイドの髪を残して耳の辺りの髪をゆるくねじって後ろに持っていく。
反対も同じようにして、緩くねじった髪を先程のリボンで軽く結ぶ。
手先が器用なだけあって、あっという間にねじりハーフアップを完成させるとアオイは満足そうに頷いた。
「うん。これでいいかな。…すごく可愛いよ。ノルンちゃん」
アオイがそう言えばノルンはゆっくりと片手でアレンジされた髪をなぞって感触を確かめながら、最後にリボンに触れると、表情を綻ばせた。
「…ありがとうございます。アオイさん。帰ったら鏡で見てみます」
「うん。本当にすごく似合ってるよ」
自分の事のようにアオイは嬉しそうに微笑んでそう告げる。
その表情を見て、ノルンは数回瞬きをした後で、瞳に弧を描き、僅かに口角をあげて見せたのだった。




