245.贈り物
その後も和やかな雰囲気で夕食は続き、テーブルの上に所狭しと置かれていた食事は気づけばほとんどが完食されていた。
レオは初めとてもではないが食べきれないのではないかとフローリアに言ったのだが、現に目の前のテーブルには空となった皿がいくつもあり、皆が満腹となり、フォークとスプーンを置いているにもかかわらず、ノルンだけは一定のペースで皿に盛られた料理をぱくぱくと食べ進めている。
そんなノルンにレオは若干引き攣った顔を浮かべる。
対象にアランはたくさん食べる妹を見ていてに気持ちがいいのかノルンの皿にどんどんと食べ物を運んでいた。
「…その身体のどこに入っていくんだよ」
「…………考えたら終わりだから」
レオに続きアトラスも満腹で少し苦しくなったお腹をさすりながら、呆れ笑いをノルンに向ける。
そしてその後数十分も経たないうちにノルンは見事全ての料理を完食した。
「ご馳走様でした。師匠。本当においしかったです」
「ふふ。頑張って作ってよかった。…でもね、ノルン。まだおわりじゃないの」
手を合わせて挨拶をするが、そこで返されたフローリアの言葉にノルンは首を傾げる。
するといつの間にキッチンへ移動していたのか、アオイがキッチンからゆっくりと両手に何かを大切そうに抱えてゆっくりと向かってきた。
「…アオイさん?」
思わずノルンが疑問符を浮かべながら名を呼べばアオイは両手に抱えていたものをノルンの目の前にゆっくりと置いた。
その瞬間ノルンは目を見張る。
柔らかなスポンジの上に一切の凹凸なく塗られた真っ白な生クリーム。赤く宝石のように美しく飾り付けられたイチゴ。
中央にイチゴに立てかけるようにして飾られているチョコレートでできたプレート。
そこに書かれた誕生日を祝うメッセージ。
それから。
「…これは…私と…ブラン、ですか…?」
チョコレートプレートの前に添えるようにして置かれている二つのクッキー。
そのクッキーの一つは金の髪を持ち、青い瞳を持った女の子。
そしてもう一つは真っ白な毛並みに青い瞳を持つ狼。
それは本当に可愛らしく、視界に入った瞬間、驚きと感動でノルンは思わずケーキに釘付けになる。
ノルンの反応にアオイは嬉しそうにゆっくりと頷いた。ノルンはしばらく可愛らしいクッキーに釘付けだったが、少しすると満足したように身体を引いてアオイにケーキをカットしてもらった。
ケーキを口に入れた途端ふわふわな柔らかなスポンジに驚き、それから絶妙な甘さのクリームに思わず皆頬を抑えた。
イチゴはほんの少し酸味があって甘いケーキを引き立てる。
口々に皆から美味しい、という言葉が漏れるとアオイは少し照れたように、しかしそれから表情を綻ばせて嬉しそうに笑っていた。
あっという間にケーキを間食すると、ノルンは静かにテーブルを囲んでいる人達をくるりと視線で追う。
皆、微笑み合い談笑しながらケーキを口に運んでいる。
その光景を見ているだけで、身体の内側が熱をほのかに持つことが分かる。
___先程、たしかに気づいた。自認した。
だからきっと、胸が暖かくなるようなこの光景も、嘘じゃない。
たしかに自分の感情が動いている証拠なのだろう。
その後、全員が食事を終え、片付けに入るかという時にフローリアはどこからか綺麗にラッピングがされた袋を取り出して、それからノルンに手渡すように差し出した。
「師匠…これは…」
「ふふ。開けてみて」
ノルンは戸惑いを浮かべながらもフローリアの言葉通りゆっくりと袋の口部分のリボンを解く。
そして袋から中に入っていたものをゆっくりと引き出せば、それはとても上質な布で作られたとても美しい上等なローブだった。
ノルンは戸惑いを浮かべたまま顔を上げ、フローリアを見つめる。
フローリアはそんなノルンの様子にくすくすと笑みを零したあとで優しくそれはノルンの物だと。自分からの誕生日プレゼントであると伝えてくれた。
「…師匠…私…こんな高価そうなもの…頂けません」
「…ノルン。貴方が気にする必要は無いわ。私が貴方にあげたくて見繕ったんですもの。今のローブは大分昔にあげたものだし、少し小さくなってきていたでしょう」
的確なフローリアの言葉にノルンは思わず押し黙る。
するとフローリアはそれを見越していたというようにくすくすと笑って、ローブをもつノルンの手を優しく支えた。
「ノルンさえ良ければもらってちょうだい。どっちみち私たちには着られないもの」
最後にフローリアは冗談めかしにそう告げた。
その言葉に申し訳ないと感じながらもノルンは、返す言葉が見つからず素直にフローリアに礼を言って頭を下げた。
改めて光沢があるそれでいて手触りの良いローブに視線を向ける。
以前と同じくローブには美しい植物模様の刺繍がなされていた。
それからそれぞれに誕生日のプレゼントを渡されノルンは既にどうしたらよいのかが分からず、珍しく終始おどおどとして戸惑いを浮かべていた。
アランからは柔らかな暖かそうなブランケットを。
レオからは魔導書を。
アトラスからは美しいガラス細工で作られた栞を。
ポーラからは可愛らしいお願い券というものをもらった。
そして、アオイからは___。
「…ノルンちゃん。お誕生日おめでとう」
ノルンの目の前にカサッと音を立てて向けられたのは美しい青の花弁が花開く綺麗な花束だった。
花の甘い香りがすんと鼻に香ってきてノルンは、ふとアオイを見上げる。
アオイの表情は少し緊張しているのか固く、どこか不安そうに見えた。
視線が合うとアオイは眉を下げて、染まった頬から力を抜くように優しく笑った。
「…受け取って、くれるかな」
困ったように笑うその顔にノルンは思わずいつかの出来事を思い出していた。
___花束がいいと思います。私ならばきっと、嬉しいと思うはずです。
(…覚えて………)
くれていたのだろうか。
あんな些細な…それも、アオイに放って言った訳ではない言葉を。
ノルンはゆっくりと手を伸ばす。
そして優しくアオイから花束を受け取る。
「…ありがとう、ございます。アオイさん。…嬉しいです。とても」
そしてそう言って僅かに口角をあげてみせたのだった。




