241.魔力の結晶
空を見あげれば無数に輝くその光の粒こそ、魔力の結晶である___。
そう、誰かは言った。
ハルジア大陸では古代の昔より魔法学が盛んで、人々は暮らしの中でその技術を更に花開かせてきた。
魔法が全盛期とされている時代はノルンたちが暮らす現代よりも、ずっとずっと昔のことだとされている。
学者たちによれば諸説あるがそれはおよそ、1000年ほど前の時代。
当たり前のように誰しもが魔法を使い、魔法は暮らしの中に当たり前に存在していたのだという。
古代の魔法技術は現代の知識と技術を持ってしても解明できない、実現できないものも多く、大陸中でいつの時代になっても学者たちは古代魔法の復活に力を注いできた。
そんな魔法全盛期の約1000年前に考えられていたとされるのが星は魔力の結晶なのであるということ。
そのため、星はいつの時代でも神聖なものと扱われ、それはノルンたちが暮らすこの時代にも根付いている。現に今でも各地で名称や形は違えど、星に関する祝い事や祭りが行われている。
フォーリオで行われる星辰祭も大昔の信仰心より生まれたものだ。
フォーリオへやって来て、それぞれが忙しなく時間を過ごしているうちに3日という時間はすぐにたち、その日はすぐに訪れた。
時刻は既に世界が夜の帳に覆われた頃。
ノルンは片手にランタンを揺らし、夜の森の中、足を進めていた。
そんなノルンの後ろにはポーラ、アオイ、アトラス、そして横にはブランが並んでいる。
柔らかな雪を踏みならしながらノルンは何を言うでもなく、先頭を歩く。
呼吸をする度にしんとした空気が鼻筋から喉を通って肺に酸素を吹き込む。
思わずそれが冷たいものでノルンは首筋にきつく巻かれたマフラーに顔を少しばかり埋めた。
「ねぇねぇノルン〜。どこへ向かってるの〜?」
とたとた、と言うような可愛らしい音が着きそうな足取りでポーラはノルンの足元から大きな瞳をノルンに向かって覗かせる。
ポーラの後ろでは何重にも服を重ね着したせいで雪だるまのようになっているアトラスを見てアオイが笑っている。
ポーラに名を呼ばれ、ノルンはちらりと一瞬ポーラを見やって、それからまるで内緒話をするように頬を緩め囁く。
「…もうすぐわかります」
ノルンはそれだけを言うと再び視線を前に戻す。
ポーラはノルンの返答に疑問符を浮かべるように首を傾げた。
するとポーラの前を先導するように歩いていたノルンがある所でぴたりと足を止めた。
「ノルン〜?」
ポーラはノルンの前に回り込むと、下からノルンの表情を伺うように顔を覗き込む。
ノルンは再び視線だけをポーラと合わせると、優しげに瞳に弧を描いて、それから手にしたランタンの明かりをふっと息を吐いて消す。
そして、一歩そこからノルンは前に進みでる。
次の瞬間、森の木々に遮られ、遮断されていた光がぶわっとノルンを包み込む。
ようやく森を抜けたのだ。
それは目が眩むほどの眩い光ではなく、そっと浮かびあがる淡い光。
ノルンに続き、隣に並んだポーラ、アオイ、アトラスは思わずその瞬間驚きに目を見開いた。
ノルンがポーラ達を連れてやってきたのは、ノルンの住む家から少し離れた場所にあるフォーリオの街を一望できる高台。
そんな場所からポーラ達が目にしたのは正に星の降る町として謳われる星の街そのものだった。
高台に出た瞬間飛び込んできたのは目下に一望できるフォーリオの街。
普段ならば暖かい炎を宿すランタンも今日ばかりはその色を変えていた。
街全体に飾り付けられた屑型のガーランドが淡く光を放つ。
それがフォーリオの白煉瓦の家々に反射して街全体を淡く、青白く照らし出す。
それはまるで夜の闇にぽっかりと浮かぶひとつの島のように。
突如として目の前に現れた景色に思わずアオイは息を呑む。その光景はとても幻想的で美しかった。
「わあぁぁぁ〜…!」
ポーラもまた感動したように黒曜石のような大きな瞳にフォーリオの街を映し出して瞳を輝かせている。
「……すごい…本当に、きれい。これが星辰祭…」
「はい。此処が一番よく街全体を見下ろせる場所です」
そうノルンがポーラ、アトラス、アオイを連れてこの場所までやって来たのはこの風景を見せるためだった。
ノルン自身一年前にも見たというのに、幾度となくこの景色を目にしてきたというのに、何年経っても、何度観ても、何度でも心を奪われてしまう。
「…そうだったな。確かにこれは綺麗だ」
アトラスも無理やり首元に埋めていた顔を上げて、目の前の景色に思い出したかのように頬を緩めてはぽつりと呟く。
「…うん、ほんとに…。ほんとに綺麗だ」
アトラスの言葉に同調するようにアオイが街に目を奪われたまま口にする。
そして少しした後ふとアオイは街から視線を逸らすとノルンを見つめた。
「…ノルンちゃん、連れてきてくれてありがとう。ほんとに見れてよかった」
ノルンがアオイを見ればアオイは少しばかり頬を染め、それは柔らかな笑みを浮かべていた。
「僕も…!ありがとう〜ノルン〜!」
ポーラもまたアオイの言葉に続けて満面の笑みで礼を述べる。
そんな二人の姿にノルンは数秒普段と変わらぬ真顔で瞬きをしたあと、小さくいえ、と告げ緩く首を左右に振る。
「…喜んでいただけて、私も、嬉しいです」
そして一瞬迷った後に素直にそう口にこぼしたのだった。




