237.贈り物のお届け
1日、2日と日を増す事に、フォーリオの街は星辰祭に向けての飾り付けが進んでいく。
夜になれば星状のガーランドが淡く青白い光を放ち、街全体を包み込んでいた。
星辰祭前日となった日の夜。
ノルンはフローリアの家から自分の家へと帰り、部屋中の四方をぎっしりと本が埋め尽くす書庫へやって来てきた。
そこで魔法で生み出したポゥの光を頼りに古いものから新しいものまで揃えてある本の背表紙を隅から一通り見ていく。
気になるものがあれば手に取って、ぱらぱらと開いてはこれも違うというようにぱたんと本を閉じる。
そんな事を繰り返していると、コンコンとノルンのいた部屋の戸が叩かれる音がした。
ノルンがはい、と返事をして扉を開ける。
するとそこにはどこか呆れた表情を浮かべたレオが立っていた。
「レオ。どうかしたのですか」
「どうかしたのじゃないよ。何回も呼んだのに出てこないんだから」
レオはそういうとはぁ、ため息を吐く。
どうやら玄関先で何度もノルンを呼んだのだが、返事がなかったために上がらせてもらったとの事だった。
どうやらここへはブランが案内をしたらしい。
レオの背後からのそりとノルンの前にやってきた大きな白狼は上目遣いでノルンと視線を合わせる。
ノルンはただ静かに優しい顔でその頭を撫でてやった。
レオがやってきたために一度調べ物は中断してレオの背についてダイニングへ向かう。
どうやらレオはノルン宛の荷物を届けてくれたようだった。
大人しくレオについて行った先でノルンは思わず目の前に広がる光景に動きをぴたりととめることとなる。
広々としたダイニングの中央。
そこに置かれているのは積み上げられた本の山に大きな上等な箱が幾つか。
そして傍に置かれているこれまた高価なものが入っていそうな小箱が数箱。
「レオ。これは一体…」
そう口にして、ノルンは思わず途中で口を閉じる。
それからまさか、と言うように疑いの瞳をレオに向けた。
すると、レオは再び今度ははぁぁ、と長い溜息をつき、手を額に当てた。
「…全部、兄さんからの贈り物だよ」
「…………こちらの物全て、ですか」
「…………うん」
予想通りのレオの返事にノルンは思わず唖然として、ぱち、ぱちと瞬きを繰り返す。
そんな中置かれた大量の荷物に興味津々なのかブランが荷物の周りを匂いを嗅ぎながら周回する。
「…………………」
しばらく放心してしまうノルンにレオはちらりと横目で様子を伺い、それから再び小さくため息を吐いた。
アランがノルンに贈り物を購入してくれていたということは手紙で何度か聞いていた。
しかしその度にノルンは今あるもので十分だと、不自由していることはないとアランに伝えてきた。
しばらくしてアランの手紙からその手の内容は聞かなくなっていたと思っていたのに。
「……………………」
しかし現実、目の前に広がるのは贈り物の山。
ノルンは珍しく現実から目を背けるように少し遠い目をしていた。
そしてそれにレオも思わず同情の視線を送るのだった。
とりあえず、もう既に購入された物については仕方ないと言わんばかりにノルンは贈り物に近づく。
ちらちらと置かれた贈り物を見ながら、その中でもノルンが一直線に向かったのはやはり床に積まれた大量の書物だった。
初めは遠慮気味に一冊の1番上に置かれた本を手に取ったノルンだが、ぱらぱらとページを捲っていくにつれて、段々と美しい宝石目は爛々と輝き出した。
そして、次の本、次の本と手にしてはページを捲っていく。
それに対してもレオはまたはぁ、と目を閉じて眉を寄せてため息を着く。
アランは国家騎士団の隊長を一任されている。
隊長ともなれば、現場に出向くばかりでなく、執務室に籠り書類仕事に追われることも多いらしいのだが、それでも遠征やどこか遠くの地に赴くともなればアランが同行し隊を率いていくこともある。
また隊長の仕事として、大型の魔物を単体で討伐しに行くことも少なからずある様だ。
つまりは出張もそこそこある。
そんなアランが出張先でつい購入してしまうのが可愛い弟と妹への贈り物だった。
基本二人からは無闇矢鱈にお金を使うなと注意されているアランだが、どうにもノルンが去ってしまった今、更にその衝動に駆られつい贈り物を買ってきてしまうのだそうだ。
それ故にはまだ旅立ちから1年も経っていないというのにこれ程の贈り物の山が出来てしまったそう。
ノルンは既に次々と本を手に取っては真顔でありながらも好奇心にその瞳を輝かせている。
そう、アランは遠くの地へ赴いては植物や、薬効、魔導書などを購入してしまうのだ。さすがに妹を思うだけあってノルンの興味ある物を理解しているらしく、ノルンはアランの思惑通り結局釘付けになってしまっている。
「………………」
「…ちょっと、ノルン」
無言で手を止める事のないノルンにレオは呆れ混じりに名を呼ぶ。
「…はぁ…。…ノルン。本が気に入ったのは分かったから先に片付けるよ」
肩を優しくひかれようやく我に返ったノルンは小さくレオに頷く。
ちなみに大きな箱の中身はこれはまたどこで買ったのか分からぬほど上等な絹の羽衣で出来た純白のドレスで箱を開けた瞬間ノルンとレオは無言になって固まった。
「………………………………………兄さん」
「…レオ。私この様なドレスを着ていく場所なんてありません」
「…………うん。兄さんに言って」
既にだいぶ疲れたように半目でまるで見なかったことにでもしたかのようにドレスの蓋を閉めてそういうレオにノルンは静かに頷く。
「…こっちはコートにセーターにブーツに……はぁ…」
「レオ。大丈夫ですか」
「……………うん。…ノルン、これ、もし着るなら絶対上に何か二枚は重ねてきて。これは履いちゃだめ」
「何故ですか」
「…短いし生地が薄いから風邪引くでしょ」
「…なるほど。承知しました」
次々にノルンの前に現れる贈り物を気づけばレオが選別していく。
これはまぁいいか、これは駄目と一目で一刀両断されていく服とレオを横目にこれ以上クローゼットに服を仕舞う場所はあっただろうか、とノルンは呑気に一人考えるのだった。




