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norn.  作者: 羽衣あかり
“狂戦士と少女”
236/260

235.兄の意地

 ノルンがそう口にすれば、誰も口を開くことの出来ないまま、重苦しい沈黙が落ちた。


 突如姿を表した過去の破壊者達の存在にどこか現実味のないまま、しかし目の前に座るアラン、レオ、フローリア、アトラスの表情がそれが恐ろしい事実だということを物語っていた。


「…あぁ。そうだ。ノルン。…その通りだ」


 アランが眉間に皺を寄せ、険しい表情の顔をあげる。

 もし今の仮説が真実だとするならば、国家騎士団隊長であるアランにとっては頭の重すぎる問題だ。


「…本当に…また“闇の(ノクス・)眷属(セルヴィトゥール)”、そして…“夜哭の死神(ラグラス)”が復活したとなれば、大陸中は大騒ぎになる」

「大騒ぎくらいですめばいいが…パニックになるだろうな。今でも魔法使いの多くは姿を隠しているが…また恐怖に怯える日々になるだろう」


 レオの言葉にアトラスが眉を顰めて言う。

 既にヘレナの戦いで多くの魔法使いが命を落とし、生き残った魔法使いもまた表舞台から姿を消した。


「…はぁ…。兄としての本音を言うならば…ノルンには目の届く所で過ごしていて欲しいが…」


 アランはため息混じりにノルンに視線を向ける。

 ノルンはアランの言葉に視線を合わせるが、一切表情を変えることはない。

 そんなノルンを見て、アランはふっ、と小さく口元に笑みを浮かべると仕方ないと言うように困ったように眉尻を下げた。


「…わかっている。ノルン、もう君を止めることが出来ないということは、分かってるよ」

「…アラン」


 ノルンがそんなアランの名を呼べば、アランは何も言わず瞳を細めた。


「…ただし、これから再び旅に出るなら…今までより一層注意はしてくれ。“ノクス”復活の真実は未だ不明だが…君は少なくとも組織の三人と既に接触をしてしまっている。そしてその内の一人は確かにノルンを狙って襲ってきた」


 真剣な眼差しと声でノルンに言い聞かせるようにアランが言う。

 ノルンは小さく頷くだけで静かにアランの言葉に耳を傾ける。

 そこまで言ってアランは力を入れていた肩を落とすと、気を抜いたように微笑んだ。


「…どうか、気をつけて、無事で…君の旅の目的を果たしてくれ」


 ___心配がないはずは、ない。

 ノルンはアランの性格をよく知っている。

 快活で、誰に対しても分け隔てなく優しい。

 まるで太陽の様な守護神。

 しかし、弟妹であるノルンとレオに見せる表情は少しばかり違う。

 誰がどこからどう見ても溺愛していると言われるほどに、アランは常に愛しい弟妹の事を想い、その愛を二人に伝えてきた。

 それは、言葉で、行動で。

 アランがノルンとレオをよく心配するのも彼らが大事過ぎるばかりに仕方の無いことなのだ。

 ノルンがフローリアの遣いで少しばかり街を離れるとなれば、魔物に襲われないか、悪質な人間に襲われないか毎夜心配をし、レオが星空の観察のために、冬の山へ登ると言えば、雪崩や遭難など、起こりうる危険性のある出来事に冷や汗を垂らして必死にレオを説得していた。


 そんな、兄を___幼い頃からノルンはよく知っていた。痛いほど、知っていた。


 それでも、今、こうして、結局はノルンの意思を尊重するべく折れてくれる。

 それは、この街を出ると告げた、旅立ちの夜もそう。

 アランは必死にノルンを説得しようと試みた。

 危ない場所に行かせたくないという兄心故だったのだろう。

 それでも、アランは結局ノルンの意志を尊重してくれた。

 その言葉にできない優しさに胸が少し詰まる。

 だからこそ、その優しさに応えたい。


「…はい。アラン。きっと…父と会います。それまでは…きっと…きっと、生きて…生きて、みせます。…そして、」


 ___その時には。


「…私にも…こんな私を想ってくださる…家族が増えたのだと…そう、伝えます」


 アランの優しさに少しでも応えたいと、そう思ったのに。

 言葉は上手く出てこずどうしようもなくぎこちがない。

 それでもノルンは懸命に言葉を選んで繋げる。

 淡々と音の変わらない声。

 途中、“家族”という単語はどこか馴染みがないように、まるでどこかから言葉だけ借りてきたかのように発せられる。


 しかし、その言葉が発された瞬間、確かにノルンが見つめるアランの瞳に光がさした気がした。

 キラッと何かが光って、アランはゆっくりと瞳を見開いていく。

 唖然とした表情に少し不思議に思いながらもノルンは言葉をつむぎ終わると静かに多少のぎこちなさはあるものの、ほんの少しだけ口角を上げることを意識して___不器用な笑みをアランに浮かべて見せたのだった。



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