表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
norn.  作者: 羽衣あかり
“狂戦士と少女”
232/259

231.無慈悲なる災禍

 今から約20数年前___。

 突如事件は起こった。


 それはハルジア大陸北部に位置するイアの大地で起こった。冬は寒さが厳しい土地ではあるものの、長閑な土地で人々は穏やかに暮らす。

 そんな土地で突如起こった出来事だった。


 その事件は余りに唐突で、その内容は余りに信じ難いものだった。

 それ故に人々の間で語り継がれるその事件は後に土地に因み、また畏怖を込めて“イアの戦い”と呼ばれるようになった。


 事件の内容というのは俄には信じ難い話。

 人々は街に、村に、道に散らばる新聞を拾い上げては目を丸くしたものだ。


 簡潔にいうなれば、それは一人の青年が村を___街を一人で滅ぼしたという内容だった。

 名前も、年齢も、全くの素性も分からない。

 たった一人の青年はイアの大地にある村、街全てを滅ぼした。

 否、飲み込んだと言う方が正しいか。

 一夜にしてイアの大地は死んだ(・・・)土地となった。

 彼以外の生存者は誰一人として居らず、イアの大地には黒い土だけが残った。

 騎士団が駆けつけた際には既にイアの大地は何も無い(・・・・)ただの焦げた大地と化していて、そこに人の亡骸はおろか、集落も、街も、何ひとつとして残ってはいなかったという。


 これが俗に言う“イアの戦い”。

 0次大戦と呼ばれることもある。


「…けれど、それ以降は何も起こらなかった」


 イアの戦い後、消息をたった一人の青年を騎士団は全身全霊をかけて長年捜索し続けたが、その姿を見つけることはできなかった。

 人々は不安に怯える日々を過ごしたが、イアの戦い以降、大きな事件は起こることなく、数年が過ぎ、気づけば人々は恐ろしい事件を少しずつ記憶から薄れさせていた。


 ___しかし、再び事件は起きた。

 次に事件が起きたのはそれから11年後のことだった。

 それは穏やかな日々に突如恐怖をもたらした。

 まさに厄災と呼ばれるに相応しい事件だった。

 ハルジア大陸の各地で突如魔法使いが次々に襲われ、命を落とす事件が頻発した。

 魔法使いであれば、老若男女問わず謎の組織に命を狙われた。

 その主犯となったのが、20年前にイアの大地を滅ぼしたかつての青年だったのだ。

 かつて青年だった男は20年の時を経て従者を引き連れて、数々の集落、村、街を訪れては魔法使いを襲った。その度に街は破壊され、逃げ惑う人々には一切の情もかけられなかった。

 突如訪れた災禍に人々は為す術もなく、多くの者たちが次々に命を落とした。

 彼らは魔法使いを襲っては魔法使いの持つ“魔力(エーテル)”を奪っていった。

 多くの犠牲者を生み、多くの集落が崩壊し、地図からその名を消した。

 その行いは余りに無慈悲で惨たらしいものだった。

 人々は姿を隠し、虐殺を繰り返す非道なもの達を“闇の(ノクス・)眷属(セルヴィトゥール)”と呼び恐れるようになった。

 そして、その頂点にたつ男を___“夜哭の死神(ラグラス)”と呼んだ。


 突如として起こった無差別な殺戮に、多くの死者が出た。はるか昔から魔法と共存し、魔法大陸として栄えていたハルジアは一気に魔法使いが激減した。

 その事件は国家騎士団の若き騎士が彼らの頂点、“夜哭の死神(ラグラス)”に大きな深手を与えたことで集結したと言われている。

 しかし深手をおった夜哭を捕らえようとしたところ、彼は従者によって連れ去られ再び消息をたった。

 それが、俗に言う“ヘレナの戦い”。

 またを第一次大戦。

 これもまた集結のきっかけとなった騎士が死神(ラグラス)に深手を負わせた地の地名からそう呼ばれるようになった。

 そして、現在までどこで息を潜めているのか___はたまた組織は消滅したのか何一つ彼らについて分かっていることはないのだと言う。


「___それ以降、魔法使いが公に姿を表すことは無くなった。今でも大陸に微かに存在する魔法使いの多くはこうして、私たちのように息を潜めているわ」


 フローリアはそっと机の下で今はもう思うように動かなくなってしまった片足を摩る。

 気づけば外は風邪がまして、吹雪となっていた。

 窓がガタガタと音を立てる。

 ぽつりぽつりとフローリアの口から話されたハルジア大陸の恐ろしい災禍の話。


 ノルンは俯くフローリアを視界におさめながら、瞳孔を見開き、思わず唇を噛み締めた。

 呼吸は知らずのうちに浅くなり、温まったはずの手先が急速に冷えていくのを感じる。

 ドクン。ドクン、と心臓の鼓動を全身で感じる。


 今なら、わかる。

 フローリアが、アランが、レオが、アトラスが、どうしてあんな表情を浮かべていたのか。

 どうして、分からなかったのだろう。

 あれは、あの、言葉は___それを示していたのに。


「…ここまで話せばきっともう分かっているかもしれないけど」


 フローリアが俯かせていた顔をゆっくりと上げる。

 そこには普段の柔らかな笑みはなく、眉を寄せ、苦しげに口を結ぶフローリアの姿があった。

 その瞳がノルンを捉える。

 フローリアの瞳は瞳を見開き不安げに口を結ぶノルンを視界に入れた。

 その瞬間フローリアははっとして、一層苦しげに___悲しげに表情を歪ませた。


 ___何故だか恐ろしい。

 フローリアの、言葉の先を聞くことが。

 何故だが、その先を聞いてしまえば、もう後戻りが出来なくなりそうで。

 何か恐ろしい事が起こってしまいそうな気がして。


「…つまり、私達が言いたいこと…考えていることは___」


 ___襲撃した彼が口にした“ノクス”というのは“闇の(ノクス・)眷属(セルヴィトゥール)”の事ではないか、ということなの。


 その一文は静かにノルンの呼吸を凍てつかせたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ