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norn.  作者: 羽衣あかり
“狂戦士と少女”
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229.“ノクス”

 ノルンは今度は自分達がゲイルと戦闘になった際のことをアラン達に話して聞かせた。

 突如襲いかかってきたゲイルだが、途中彼の弟であるマルトという子どもが気を失ったためにノルンが治療をしたのだ。


「…なるほどな。それであの戦士はノルンの兄である俺を殺そうとはしなかったのか」

「まぁ、それもあるかもしれないがあいつはマレウスって男を連れ出すことが任務って言ったんだろ?それなら、お前と決着が着くまで戦闘をするのは時間のロスだ。一刻も早く此処を出たかったはずだ」

「そうか。そうかもしれないな。…それよりも、やはりあの時に現れた子どもはあの男の弟だったのか」

「アランさん。その男の子も戦闘を…?」

「いや、彼は突如現れた。しかし、戦うことはなく、その後すぐに三人は姿を消した」


 アランが首を横に振ると、アランの隣で眉をしかめたレオがそれにしても、と呟きノルンを見つめた。


「…敵の治療をするなんて…。相変わらず無茶がすぎる」

「…すみません。レオ」

「そうね。ふふ、まぁノルンらしいと言えばそうなのだけれど」

「…師匠(せんせい)。甘やかさないでください」

「ふふ、ごめんなさい。それでも、本当に無事でよかった。貴方の優しすぎる性格はこれでもという程に理解はしているつもりだけど…どうか、自分の命、お仲間の命を最優先にね。ノルン」

「___はい。師匠(せんせい)


 フローリアは優しくノルンの両手を包み込んで諭すように囁く。

 ノルンもまた今回のことで身に染みて理解していた。

 ノルンは小さく頷いてそれからフローリアの手を優しく握り返した。


 これから先、ゲイルのように突如襲ってくる者があるとも限らない。そしてそれは何も人間だけでは無い。

 この先を進むとなれば、魔物は今よりもっと強力になり、中には狡猾なものもいる。


 フローリアの言葉を胸に、一層状況を見極め、慎重に進んでいかなければならないと、ノルンは改めて自分自身に言い聞かせた。


「それにしても、ノルンちゃんを襲ってきたあの仮面をつけた人と…ゲイルって人が仲間同士だったなんて…」


 アオイの呟きにノルンはちらりとアオイを見る。

 それに関してはノルンも気になっていた事だった。

 どうにもノルンの目から見た2人は集団行動ができる性格の人間には見えなかった。

 そして何よりアランの話を聞いた上でも、二人が仲の良い関係であるとは到底思えない。

 そして、他に気になることがあるといえば___


「…アラン。ゲイル様は任務、と仰っていたのですか」

「…あぁ、そうだ」


 ノルンの問にアランは重々しい表情で頷く。


(…任務、となれば__)

「…更にその上がいるってことだな」


 ノルンの考えを代弁するように口にしたのはアトラスだ。そしてアトラスは更に表情を険しくして続ける。


「…あいつらは他にも仲間がいるのかもしれないし、何か組織的なものなのかもしれない。…それと、あともう一つ。俺が気になっていることがある」


 アトラスの声が一層、低く、緊張感を持ったものに変わる。

 思わず席に着くものの間にも緊張が走り、ポーラは既に話についていけていないようで机の隅で目を回していた。


「…あいつは…お前に、本当に、そう、言ったのか…?アラン」

「………………」


 アランはまるでアトラスが何を口にしようとしているのかを理解しているようだった。

 今までで最もその表情は険しくなり、アランの拳に力が入ったのがわかる。

 そして、何故かレオとフローリアも表情を険しくして顔を俯かせている。


「……………」


 ___一体、アトラスは何を言うつもりなのか。

 唯ならぬ気配に口を挟むことなど出来ない。

 ただ、アトラスの言葉の先を静かに待つ。

 アトラスがばっと顔を上げて鋭い瞳でアランを捉える。

 そしてごくりと生唾を飲むようにしてから、ゆっくりとアトラスは口を開いた。


「…本当に、“ノクス”だと、そう…言ったのか…?」

「…ノクス?」


 重々しく発された単語にアオイは首を傾げる。

 それはノルンも同様だ。

 何処かでその言葉を耳にしたことがあるような気はしていても、その単語が何を指し示しているのかは、はっきりと思い出せない。

 しかしアランはアトラスの視線を真っ向から受け止めると、酷く険しい表情で、ただ静かに肯定を示した。


「………あぁ。間違いない」

「…ッ…」


 その瞬間アトラスの瞳が驚愕の色に変わる。

 見開かれた瞳は未だアランの言葉を受け止めきれないというように揺らいで見えた。

 そして、アトラスは興奮して立ち上がった身体をから力を抜くように椅子に腰を下ろした。

 その瞳は未だアランに向けられており、まるで信じられないと言うようにアトラスは言葉を失っていたのだった。


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