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norn.  作者: 羽衣あかり
“狂戦士と少女”
226/260

225.真夜中の襲撃者

 ___時は数日前に遡る。


 ノルンから忠告の手紙を受け取ったアランは真夜中にも関わらず兵を集めては即座に地下牢の警備を強化させた。

 また見回りを増やし、街の警備も街の人々からはわからぬよう強化をして不審者の警戒に務めた。


「そして、それから2日後の夜___騎士団の駐屯地が襲撃された」


 それは雪の降りしきる星すら見えぬような真夜中だった。アランはノルンから手紙を受け取ってからというもの、毎夜マレウスの牢の前に牢番と共に立ち、警戒を促していた。


 ___ハッ…。隊長様直々に二日連続でやってくるたァどういう事だ。新手の嫌がらせかァ?鳥の隊長様は随分とお暇なんだなァ?

 ___おいっ貴様ッ…!!

 ___…そうだな。それなら君が仲間の情報を話してくれるか?そうすれば俺も考慮しよう。

 ___ハッ。黙れよ。何度も言っただろォが。………俺に仲間なんていねェ。


 未だ地下牢に囚われているマレウスは一向に己に関する情報、それから仲間、組織について一切のことを話さなかった。

 唯一分かっていることと言えば、一度ある大きな実験に失敗をしてとある街を半壊させ大きな人的被害を出したことで(イーグル)に捕らわれた経歴があるということ。

 またその一件からか騎士団を酷く憎んでいるという事くらいだった。


 ここ数ヶ月何度目かわからぬ不毛なやり取りが続く。その時だった。突如地上で発砲音と爆発音のようなものが起こり、それは地下にも轟いた。

 建物が振動し、パラパラと天井から砂が地面に落ちた。


 ___…何事だ。


 視線を鋭くさせるアランの元に一人の兵士が焦りを浮かべた様子で走ってくると、状況を報告した。


 ___隊長…!報告ですっ…!フードを被った何者かが突如基地に乗り込み襲撃をッ…!!

 ___…!人数は?

 ___そっ…それが…一人だと思われます…!


 そこでアランは報告をする兵士の背後___地下牢へと続く階段の奥に影を捉え、瞬時に表情を険しくすると即座に腰に据えられた剣を引き抜いた。


 兵士の短い叫び声と同時に衝撃音が地下牢内に響き渡る。兵士を庇うように前に出て剣を構えたアランの腕に骨が軋むような重さが伝わる。


 ___へェ。

 ___…誰だ。此処へ何をしに来た…?


 アランが引き抜いた剣は一つの拳を受け止めていた。

 瞬時に目の前に現れた人物はたしかにフードを被っていてその姿が見えない。

 不気味な襲撃者の姿を照らすのは地下牢の篝火だけ。

 聞こえてきたのは若い男の声だった。

 何時だって悪を見定めるその瞳は曇ることは無い。

 闇夜の中でアランは透き通るエメラルドを細めると相手に静かに問う。


 ___チッ…。やっと来やがったかよ。愚図が…。


 背後の牢から小さく舌打ちと共に吐き出された言葉にアランは一層眉をしかめ表情を険しくさせる。

 するとフードの奥で一瞬キラリと刃物のように鋭い瞳が光ったような気がした。

 そして目の前に拳をぶつけて来た男はもう一度今度は逆の手で先程よりも強い威力のパンチを繰り出すと楽しげに喉を鳴らした。


 ___…いいねェ…。強い奴は好きだぜ?…俺はゲイル。“ノクス”のゲイルだ。

 ___…あ"ぁ!?テメェッ…!!!!


 フードを被った男が顎を少し前に突き出すようにして、アランを見下ろすようにそう名乗った。


 ___…!!!!…何…だと…………………?


 その瞬間アランの瞳に強い動揺が走る。

 それと同時に再びゲイルと名乗った人物はアラン目掛けて強烈な一撃を繰り出す。

 アランは奥歯を噛み締めて、迸る動揺を抑えきれないままその拳を剣で受け止める。

 衝撃により凄まじい爆風が起こる。

 爆風を受けたゲイルのフードがぱさりと音を立てて落ちる。


 そこに居たのは自分とそう変わらぬ年頃の青年だった。肩口まで伸ばされた紫色の髪は風に靡き、楽しげに釣り上げられた口元と、爛々と輝く瞳。


 ___何言ってやがんだこの馬鹿野郎がッ…!!!!


 背後の牢の中からマレウスが瞳孔を見開いて牢の鉄柵を固く握りしめアランに___否、ゲイルに向かって吠える。

 しかしゲイルはマレウスを見た途端、きょんとしてそれからなんてことの無いように、むしろ興味が無さそうに言った。


 ___ん?あぁ…。そこに居たのか。…ったく、ヘマしやがって。…まぁ、少し待ってろ。お前を出すのは…もう少しこの騎士と遊んでからだ。

 ___あ"?おいッふざけるなッ!!早くここから出しやがれッ…!!!!


 マレウスに向けられた視線はすぐさまアランへと向けられる。

 舌なめずりをひたゲイルは心底楽しそうに笑う。

 そんな状況でアランは口を固く結び、瞳孔を見開きながら先程ゲイルが言った言葉を反芻していた。


(………先程、この男はなんて言った…?………“ノクス”だと…………?………本当に、そう、言ったのか……………?)


 嫌な汗が頬を滑り落ちる。

 心臓が低く、大きく音を立てる。

 しかし考える余裕も与えられるままゲイルは再び猛攻を繰り出す。

 門番と先程伝達にやって来た兵士は怯えつつゲイルに向かっていったものの、一撃で伸され今は気を失っている。

 つまり、現状、今。この場にはフォーリオ騎士団隊長アランしか敵と対峙するものは居なかった。

 未だ檻の中とはいえ、敵同士に挟み込まれた状況でアランは視線を細めるとぐっと奥歯を噛み締めたのだった。

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