221.帰還
アランに手紙を送り次第すぐにノルン達は急ぎフォーリオへ向かった。
ノルンの推測通り、フォーリオの一つ手前の山では既に雪化粧をしており、ノルンもアオイも分厚いコートを羽織り、雪山を進むこととなった。
ポーラは初めて見る雪に大はしゃぎであった。
シロクマは本来暑さよりかは寒さに強い動物だ。
その事もあるのだろうか。
比較的ポーラはアトラスの様に縮こまることはなく、白い大地に足跡を残してはあちこちを駆け回っていた。
そんなポーラを見てアトラスは信じられないと言った様子で、コートの上にコートを重ねもはや分厚すぎる完璧な防寒対策で雪山に挑んでいた。
それから数日後__。
雪道を歩いて、ようやくフォーリオの背面にそびえ立つフォリア山を捉えることができ、その数時間後、その麓に形成された美しい街を確認することが出来た。
フォーリオの街の家々にも白い雪は降り積もり、街全体が雪の街となったそのその景観はそれは美しく毎年訪れた旅人を魅了するのだ。
目下にフォーリオの街を捉え、ノルンは静かに足を止めた。
「…やっと着いたな。ノルン、ここからはどうする」
寒さに鼻を震わせ、身体を震わせるアトラスがノルンに問う。
ノルンは静かに美しいその瞳に既に懐かしきフォーリオを捉えると小さく口を開いた。
「…このまま迂回して、わたしの家に向かいます。そして、その後、師匠の家に向かいます」
「…街を避けていくんだったよね」
「はい」
ノルンはアオイの問いに静かに頷く。
フォーリオの冬はまだ始まったばかりとはいえ、さすがに冷えきった空気には頬を染める。
ノルンとアオイの頬は薄らと紅潮し、漏らす吐息は白い。
「…今回は…あくまで街の様子とそれから…アラン達の安否の確認が目的です」
できれば、街の住人と鉢合わせてしまう自体は避けたい。皆の安否を確認できればノルンはすぐにでもフォーリオを発つつもりだ。
ノルンの意図を理解したアトラスとアオイは無言で首を縦に振る。
「…こちらです」
ノルンはそれを確認すると、ノルンもまた小さく頷いて皆を先導するように先へと進んだ。
春頃にアトラス、そしてアオイと再開した森は既に色を失って一面白銀世界と化していた。
一歩進む事にくるぶし辺りまで積もった雪がざくざくと音を立てる。
「…はぁ……はぁ……」
呼吸をする度に吐息が漏れる。
ゲイルと別れたあの日から気づけば考えてしまっていた。
気づけば、祈っていた。
(…どうか……どうか。無事でいてください)
と。
アランの強さはよく知っている。
守護神と称えられるその戦闘力に偽りはない。
何度この街を屈強な魔物から守ってきたことか。
何度悪事を働く悪漢を取り押さえてきたことか。
アトラスはあの日から何度もアランの実力に嘘は無いといってノルンを励ましてくれた。
ノルンもそれを信じている。
そして、この街にはアランだけではなく、騎士団が在中している。地下牢に忍び込むことは容易ではない。
しかし、それでも尚ノルンの胸から不安は拭えない。
信じていない訳ではない。
疑っている訳では無い。
ただ、実際に自分が戦闘に立ち会ったからこそわかるゲイルの実力。
そして、旅に出たあの日、感じたマレウスの狂気。
ノルンは少しはばかり表情を歪めると首元のマフラーに顔を埋めた。
それは去年義兄であるレオから貰ったものでノルンはレオの言いつけ通り、しっかりとマフラーを首に巻いていた。
(…アランも…レオも、師匠も…。そして、街の方々も…どうか)
___無事でいてください。
そう思うことしかできなかった。
先程傍目から伺ったフォーリオに明確な戦いの痕跡は見られなかったように思う。
しかし、もし本当にゲイルがマレウスの解放が目的でこの地へ訪れていたのならば狙うべきは鷹の駐屯地だ。
フォーリオはハルジア大陸の最西端に位置している。
周囲を山に囲われている事から地理的にいえば鉄壁の要塞であり、他国からの防衛もフォーリオに属する部隊は担っているのだといつかアトラスに聞いたことがある。
実際にフォーリオの在中する部隊はいくつかあり、その全てを相手にするのはゲイルでも分が悪いだろう。
しかしそれでも、ゲイルが人数に戦き引き返すような人物であるとは到底思えない。
だからこそ、不安な気持ちが病むことは無い。
どうか、この目で大切な人達の無事を確認したい。
その一心でノルンは静かに淡々と雪道の中を急ぎ足で進んでいくのだった。




