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norn.  作者: 羽衣あかり
“狂戦士と少女”
221/262

220.愛する妹からの手紙

 弟妹のことを考えては知らぬうちに気を緩めてしまう。

 今だって先程の険しかった表情はどこへいったのかアランが星空を見つめるその瞳は優しげだ。

 昼間は太陽に照らされて透き通るエメラルドも今は静かな夜に瞬く星を映している。

 どうか、無事で、体調を崩すことなく、日々笑っていて欲しいと願う。

 しかし___。


 アランは星空を背に再び机の上の書類に向き直ると、眉をしかめ、再び険しい表情を浮かべる。

 アランの手にしている書類には、一人の人物の顔写真が貼られており、その下には顔写真から線を引くようにして、狂戦士ゲイルと言う文字が連ねられていた。


 この人物の名を聞くようになったのはここ数年のことのように思う。

 神出鬼没に現れては、出会った人々に無差別に戦いを挑む狂戦士。

 それがゲイルだった。

 そんなゲイルの資料が今、アランの手元にあるのには理由があった。

 ここ最近フォーリオに隣接する地方でゲイルらしき人物に襲われたという情報が複数入ってきたためだ。


 すぐにフォーリオの騎士団でも警戒を高め、夜間は巡回回数を増やし、また目撃情報があった場所に向かっては執拗にその痕跡を調べさせた。

 しかし未だゲイルを捕らえることは出来ていない。


「…狂戦士(バーサーカー)ゲイルか…」


 独り言のような呟きがぽつりと零れる。

 アランは定期的にノルンと手紙のやり取りをしている。業務が忙しい時には中々手紙を送れない日々もあるが、それでも時折ノルンから寄せられる美しい筆跡の手紙は確かにアランの癒しだった。

 どこで何をしているのか。

 どんな人物に出会ったのか。

 ノルンらしい硬い文章ではあるが、アランにとっては何よりの報せだ。

 しかし以前に手紙のやり取りをした際、ノルン達は再びフォーリオ付近に近づいているという。

 その手紙を受け取った際、思わず嫌な汗が流れた。

 フォーリオ付近といっても広大な範囲でゲイルと出会う確率など微々たるものだろう。

 しかし、そう言い聞かせても尚、胸の内をざわつかせる不安は消えることは無い。


 手紙を受け取ってすぐに机に向かうと紙を用意し羽根ペンを走らせた。

 初めに普段と変わらずノルンの手紙の返事、それから最近の近況を記して最後にゲイルの情報を書き、くれぐれも注意をして欲しいという旨を綴った。

 そしてノルンに贈った美しくも勇ましい鷹にその手紙を預ける。

 その鷹はホークスという名前を授かったらしい。


 ___頼むぞ。ホークス。


 それがつい数日ほど前の出来事。

 ノルンからの返事は未だ届いていない。


(…無事でいてくれればいいのだが)


 そんな思いがよぎる。

 ノルンは強い。

 そんなことは理解している。

 それに旅には頼もしき仲間であるアトラスやアオイ、ブランも同行している。

 どうやら最近では可愛らしいしろくまも旅に同行するようになったらしい。

 彼らがいて滅多なことはないと思いたいが、それでも妹を思う兄心からすれば、どうしたって心配してしまうのは避けられない。


「…………………はぁ」


 どうも疲れからかため息を何度も零してしまう。

 それでもアランの机の上には目を通さなければならない書類が未だ山積みだ。

 アランはちらりと其方に視線をやるとよし、と気を引き締めるように頷いて改めて背筋を伸ばし羽根ペンを手に取るのだった。


 しかしいざ書類に向かった時だった。

 コンコン。コンコン。

 という音が背後から聞こえアランは少し驚いた様子で振り向く。


「……………ホークス」


 そしてそこにいたものに少し目を見開いたのだった。

 大きな鷹がアランの執務室の窓の外側の縁に立ち、嘴で大きな窓をノックしていた。

 その美しい羽には所々白い雪が降り積っている。

 アランは急ぎ椅子から立ち上がると窓を開け放ちホークスを中へ招き入れた。


「ちょっと待っていてくれ。すぐに開ける」


 鍵を外して勢いよく窓を開け放てば一気に身を刺すような冷気が流れ込んでくる。


「…寒かっただろう」


 アランはホークスが部屋に入ったことを確認して窓を閉める。

 そして羽についた雪を軽く落としてやる。

 ホークスの羽は凍っているかのように冷えきっていてアランは少し驚いたように目を見開く。

 フォーリオでは今は美しい夜空が冴え渡っている通り雪は降っていないが、それでも午前中には降っていたし、ここへ来るまでの途中の道のりで雪の中を羽ばたいて来たのかもしれない。


 アランが労いの言葉をかければホークスはそれよりも、というように小さな足をアランにぐいっと差し出してきた。

 アランが首をかしげ足元を見ればそこには小さな足に結ばれた手紙のようなものが付けられていた。

 アランははっとしてすぐさまホークスの足に結ばれたリボンを解くと手紙を広げた。


 それは紛れもなく愛しい妹の美しい筆跡だった。

 しかし珍しくその字体はどこか崩れており、急いで書き記したかのように掠れている箇所もある。

 そして、手紙に目を通していくうちにアランは美しいエメラルドの瞳を見開く。

 手紙の内容はアランを動揺させるには十分すぎる内容だった。

 そこには、アランが注意を促した狂戦士と戦闘になったということ。

 その戦士との会話からその戦士はフォーリオへ向かっているということ。

 そして___


(…………“恐らく彼の狙いはフォーリオに捕らわれているマレウスと名乗った方の解放だと推測します”)


 アランはその文章を目で追って思わず手紙を持つ手に力を入れる。

 ぐしゃりと鳴った紙にはシワができる。


 ___私達も急ぎ其方へ向かいます。それまで、どうか、どうか無事でいてください。


 そして最後にそう綴られて手紙は締めくくられていたのだった。






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