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norn.  作者: 羽衣あかり
“狂戦士と少女”
219/260

218.下した決断

 考え抜いた末ノルンが下した決断は___


「…フォーリオへ、向かってもいいですか」


 一度、フォーリオへ戻り皆の無事を確認するという決断だった。

 俯いていた頭を上げたノルンはぐっと唇を結んで緊張感漂う表情でアトラス、それからアオイ、ポーラに告げた。


 本来の目的はベルン。

 現在ではベルンに行けば父の手がかりがあるということも分かった。

 しかし、それよりも優先せざるを得ない事情が出来てしまった。


「…わたしの身勝手で…何度も、何度も…」


 元々はノルンが始めた旅だ。

 アトラスとアオイ、そしてポーラはそんな自分の身勝手な旅に同行してくれている。

 それなのに、漸く前に少し進んだと思えば後退してばかり。

 ノルンの胸の内に罪悪感がしんしんと降り積もる。

 謝罪を口にしようと言葉を紡ぐ。

 しかしその言葉は優しく、アオイに止められる。


「ノルンちゃん」


 柔らかな声で名を呼ばれ、ノルンは知らぬうちに俯いていた視線をそっとあげる。

 そこには、心底優しく瞳を細め微笑むアオイがいた。

 そしていつも通りの余裕そうな笑みを浮かべるアトラスに、可愛らしく小さな口元をあげるポーラ。


「…いいんだ。行こう。フォーリオへ」

「アオイさん…」


 アオイが一歩前に出て、ノルンに近寄ると知らぬうちにきつく握りしめられたノルンの両手をしなやかな手にとる。

 暖かな温度に白い華奢な指先が包まれる。


「おう。反対してる奴なんていないぜ」

「うんっ…!ノルンといっしょならどこでもいいよ〜」


 視線を少し横にずらせば、にかっと太陽のように笑うアトラス。そして、にこにこと天真爛漫な笑みを浮かべるポーラ。


 ノルンは薄く見開いた目にきゅ、と力を入れる。


(…いけない)


 そうでもしないと、目の前の三人の暖かな優しさで何かが零れ落ちそうで。

 急遽何度も寄り道をした時も、目的地を変更した時も、マルトを治療したいと願った時も___。

 もう、段々と人に疎いノルンでさえ___理解(わか)ってきていた。

 三人の底なしの優しさを痛いくらいに知っていた。

 そういう人達だと、知っていた。

 決してノルンの決断を咎めるようなことはしない。

 温かな真心で受け止めて、あまつさえ嬉しそうに微笑(わら)ってくれる。


 ノルンは温かなアオイの温もりに縋るように無意識に繋がれた温度を手繰り寄せた。

 そして、一度俯いて、もう一度顔を上げる。

 今度はもう、星の瞬きを想像させる深く煌めくグランディディエライトは揺らぐことはなかった。


 その後すぐにノルンはフォーリオにいる兄であるアランに向かって筆を走らせた。

 今はとにかく時間が無いので要点だけを纏め、ホークスに託す。


「お願いします。ホークス。できれば…急ぎでお願いいたします」


 ホークスの足に手紙を括り付け、小さな頭をひと撫ですれば賢い鷲は小さく鳴き声を上げて、悠々と翼を広げ飛びたった。


「よし、これでとりあえずアラン達には伝わるだろう」

「うん。よし、僕らも急ごうか」

「はい」


 ゲイルと別れたのはつい先程の事。

 この大地からフォーリオへ向かうには早くても数日はかかる。

 日に日に冷え込む寒さと、葉を落として肌寒そうに枝だけを残す木を見上げては不安が募った。


「…この大地を越え、一つ山を越えればフォーリオですが…山へ着く頃には恐らくもう雪は降り始めているかと」


 ノルンがそういえば前方を歩くアトラスがぷるりとあからさまに肌を震わせた。


「そっかぁ…。もう冬だもんね」

「…うぅぅ…また雪が始まるのか…」


 朗らかに話すアオイとは対照的にアトラスは既に去年の冬を思い出しているのか、着込んでいるジャケットの上から両腕を抱え、雪が億劫な様に眉を寄せた。


「…ゆき…雪…。ノルンのふるさとでは雪がふるの?」

「はい。フォーリオは大きなフォリア山を背面に構える街で、この地方では冬になれば雪が積もります」

「へえぇ…ぼく雪初めてだよ〜…!へへ、楽しみだなぁ」


 ポーラはどうやら故郷であるコラル島から今まで出たことがなかった為に、雪を見たことがない様だ。

 コラル島は大陸の最南端に位置しており、気候は年を通して温暖。

 ノルンの育った街フォーリオとは地域からして全く環境が異なるのだ。


 そのためポーラは雪という言葉は聞いたことがあっても実際に目にしたことは無いらしく、雪が見れるということであからさまにうきうきとしていた。


「…ポーラ。そんないいもんじゃないぜ…?1回体験したら…うん。…もう………うん」


 対して同じウール族であるのにアトラスは考えただけで、という様にその瞳は既に遠くを見ていた。

 温暖な地域で暮らしてきたウール族にとって、大陸の冬は余程きつい思いをした用だ。

 今年は家で過ごすのではなく、それこそ旅をしている分、外で夜を過ごすこともあるだろう。

 何とかアトラスとポーラが冬を越せるようにあるだけの毛布をトランク内に準備して置いた方がいいかもしれない、とノルンはアトラスの話を真顔で聞きながら考えていたのだった。




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