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norn.  作者: 羽衣あかり
“狂戦士と少女”
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214.放っておけない

 アオイの言葉に背を押され、ノルンは再びゲイルの前に膝を着くと、今度は迷いなく、夜空を映すその瞳でゲイルを見つめた。


「…ゲイル様、マルト様の治療を…わたしにさせてはいただけませんか」

「……………ぇ…」


 ゲイルは今にも零れそうな雫を瞳に何とか留めて崩れそうな顔でノルンを見た。


「安心していい。ノルンは腕の良い薬草使い(ハーバリスト)だ」


誇らしげな顔で、ゲイルにそう言うアトラスの言葉にノルンは軽く頷く。

腕の良いという部分については訂正したいところだが、今はその暇はなさそうだ。


「ゲイル様からしてみれば、敵対していた者の言葉など信じられるはずが無いことは理解しています。__それでも…」


 ノルンはマルトを見やってその苦しげに呼吸をする姿に眉を寄せてから力強い瞳でゲイルに向き直る。


「…信じてください。ゲイル様。マルト様の容態が回復するようにできる限りの事をします」


 はっきりとそう言い切ったノルンにゲイルは戸惑いの表情を浮かべる。彼の口の中で小さくなんで、という言葉が呟かれた気がした。


「…ゲイル様を…マルト様を。放っておくことが、出来ないからです」


 何故。

 敵対していた相手に何故。

 理由なんてない。

 ノルンにも、分からない。

 それでも、ただこうしてゲイルに手を差し伸べている理由があるとするならば、それは、たったそれだけの事実で。


「……っ……、頼む…ノルン。…頼む」


 ゲイルは何かをこらえるようにぐっと顔を顰めると、小さな声で何度もそう言って懇願した。

 ノルンはその言葉を待っていた。


「___はい。ゲイル様」


 ゲイルが涙ながらにそう告げた次の瞬間、ノルンは揺るぎない透き通る様な声でそう告げた。

 そしてまずは、自分の目でしっかりとマルトの状態を確認するためにマルトに触れさせてもらった。


「マルト様。初めまして。ノルンと申します。わたしは薬草使い(ハーバリスト)です。マルト様の治療をさせていただくために、少しお身体の様子を見せてください」


 此方の声が聞こえている状態なのかも怪しいが、それでも少しでもマルトの緊張や、気持ちを安定させるためにノルンはマルトの耳元で優しく告げる。


 そしてゲイルに頼み、マルトをノルンのトランクから出した毛布の上に優しく寝かせる。


「マルト様。お辛いところ申し訳ありません。少しだけ確認させてください。わたしの問いかけに同意していただける様でしたら軽く頷いていただけますか。もしくはわたしの指を握っていただいても構いません」


 マルトのきつく閉じられていた目が薄く開く。

 それはゲイルと同じアメジストの美しい瞳だった。

 柔らかな紫がかった黒髪もゲイルと兄弟であるということを認識させられる。


 ノルンがゆっくり声をかければマルトはか細い呼吸を繰り返しながらも一度ゆっくり瞬きをした。

 ノルンはそれを同意と受け取り、マルトの小さな手に触れる。


「咳が止まらないのでしょうか」


 ノルンの華奢な指先を小さな掌が弱々しく握る。


「他に痛いところはございますか。頭はどうですか」


 反応は無い。


「お腹はどうですか」


 反応は無い。


「胸の痛みはありますか」


 マルトが再び弱々しくノルンの指先を握る。


「ありがとうございます。すぐにお薬を用意します。マルト様」


 ノルンはそこまで簡単な問診を済ませると、優しくマルトから手を離して横たわるマルトを安心させるようにまだ小さな子供の背中を撫でた。


 ノルンがトランクから薬を取り出している間、ゲイルは不安げな表情でずっとマルトに寄り添って小さな背中をゆっくりと摩っていた。


 アオイも手ぬぐいでマルトの額の汗を拭い、アトラスはマルトに毛布を一枚かける。

 ポーラはひたすら涙ながらにマルトの手を傍で握っていた。


(…咳止めの魔法薬(ポーション)と内蔵修復魔法薬(ポーション)。それから、痛み止め…)


 恐らくマルトが吐血したのは強く咳き込みすぎてマルトの体内の血管が損傷したのだろうとノルンは推測する。

 頭痛やお腹の痛みなどもなく、胸の痛みは恐らく激しく続く咳によるものだろう。

 ノルンは小瓶に入れられた色の違う魔法薬(ポーション)を3つ取り出すと、それをゲイルに手渡した。


「ゲイル様。こちらの3種類の薬をマルト様に飲ませてください。ご安心を、害はありません。ご不安なようでしたら私が今、飲んで確認致します」


 先程もゲイルに告げた通り、知らぬ者から大切な家族に与える薬をもらうのはゲイルも内心怖いはずだ。

 ノルンはゲイルを気遣って毒味をするとかってでた。

 しかしゲイルはノルンの言葉に緩く首を振った。

 そして無言で2種類の薬の入った小瓶を受け取る。


「…いや、いい。ノルン。お前達を襲ったのは俺だ。そんな俺に…手を差し伸べてくれたお前を疑う事はしない」

「…ゲイル様」

「…マル、薬だ。飲めるか?これを飲めば楽になるはずだ。少しだけ…頑張ってくれ」


 ゲイルは横たわったマルトの身体をゆっくりと抱き起こしながらその口にノルンの作った魔法薬(ポーション)を注ぐ。

 マルトは始め少しばかり咳き込んだものの、何とか無事3種類の薬を飲み終えたのだった。






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