211.戦闘中のSOS
繰り広げられる激しい攻防にノルンは息を切らしていた。
「はぁ………はぁ………」
綺麗な顔に眉を顰め、鋭くした視線でゲイルを捉え攻撃を仕掛ける。
しかしゲイルは身軽に攻撃をひらりと交わすとすぐさまギラつく瞳でノルンを捉え向かってくる。
「物理防御魔法」
「ははッ!硬ぇなッ!」
ドンッガンッドンッ、という重い一撃がノルンの結界にぶつかる。
その瞬間ドンドンッと発砲音が聞こえて、ゲイルは弾を避けるために高く上に飛ぶ。
「チッ…」
アトラスも舌打ちをしてすぐに飛び上がったゲイルを追撃する。
息が上がってきたノルンと異なり、ゲイルは未だ余裕たっぷりの表情で笑う。
ゲイルの頬にアトラスが時間差で放った1発の弾丸が掠る。そこから少しばかり血が滲むとゲイルは視線を細めてグローブをはめた手でぐいっと拭った。
拭った血が頬の横に広がり、余計にゲイルの野性味が際立つ。
ギラギラといつまでもノルン達を見つめ続ける瞳は獲物を捉えた猛獣のようだ。
「はは。久しぶりだぜ。ここまで戦える奴らと会ったのは。いいね。もっとやろうぜ」
ゲイルは前髪をかき揚げて腰を低くするとニヤリと笑う。そして再び真正面からノルンに向かって突っ込もうと足を踏み込む。
その時だった。
「ノルン〜〜〜〜ッッ……!!」
「…!」
後方から泣き叫ぶような切迫した声が聞こえた。
それは紛れもないポーラのもので。
ノルンは目の前のゲイルから視線を話すことはできず、ポーラの声を背中で聞く。
「なッ…ポーラ!?」
アトラスも突如現れたポーラに驚きを隠せない。
ポーラは戦闘中だというのにも関わらず涙で顔をぐしゃぐしゃにして、なりふり構わず大声で告げた。
「ノルンたすけてぇっ…!男の子がっ…倒れちゃったよぉう〜っ…!!」
「…!」
ノルンはポーラの言葉にぴくりと反応する。
しかしノルンよりも先に反応を示したのは目の前で今にもノルンに飛び掛ろうとしていたゲイルだった。
ゲイルはハッとすると攻撃の手を止め、一瞬で顔色を変えた。
「男の子ぉ…?」
「…ッおい!」
「あ"ーーッ…!!」
アトラスは状況が理解できず眉を寄せる。
ゲイルはその表情を一瞬で焦燥に変えるとノルンの横を通り過ぎて走り来るポーラを掴まえた。
捕らわれたポーラは突如怒鳴られ、その剣幕に怯えるように悲鳴を漏らし涙を溢れさせた。
「ポーラっ…!」
「おい!ポーラを離せッ…」
思わずノルンとアトラスは驚いてポーラに駆け寄る。
しかしゲイルは気絶しそうになっているポーラをぐらぐらと揺らし、眉を釣り上げ冷や汗を垂らした。
「お前ッ今、子供が倒れたって言ったかッ!?どんな奴だッ…まさかッ……………!!」
「…………?」
ポーラは首をぶんぶんと揺られ、言葉を発することすら出来ない。
ゲイルは言いたいことだけを言うと、ポーラの返事を聞くこともせずポーラを置いて、ポーラが現れた方向に駆け出したかと思えば一瞬で姿を消した。
ノルンは余りのゲイルの豹変ぶりに未だ少し驚いていたが、ふらふらとして倒れそうになるポーラを支えると、ゲイルの走り去った方向に視線を移した。
「何だったんだ々?ポーラ、平気か?」
「あぅ……………あぃ…」
ポーラはぐるぐると回る視界の中何とか返事をする。
しかしそこですぐに何かを思い出したのかはっとすると自身を支えるノルンにすがりついた。
「ちがくて…ぼくじゃなくて……の…ノルンっ…!あっちの奥に男の子がいて…それで、咳をたくさんしてて…!そのあと血をだしてたおれちゃって…っ…!」
「血を出してって…」
ポーラはおんおんと泣きながらノルンに訴えかける。
ノルンはそんなポーラの話を聞きつつも、少し困惑した表情を浮かべていた。
ポーラの意志を尊重するならば男の子を助けに行かなくては。
ノルンとしてもとても気がかりだ。
しかし先程のゲイルの標本ぶりは___?
もしや、彼にとって関わりのある人物なとでは___。
「けど、なぁ…」
そんな思いが頭をよぎる。
そしてどうやらそれはアトラスも同意見のようだった。アトラスもまた難しい顔を浮かべている。
するとノルンの手を柔らかな小さな手がぎゅっと包み込んだ。
「おねがいノルン〜っ…!」
「…!」
涙で瞳を濡らしたポーラが懸命にノルンに語りかける。男の子を助けて欲しいと___ポーラはそう、ノルンに言っているのだ。
「___わかりました。ポーラ」
ノルンの答えは決まった。
「…っおいおい、待てノルン!今のうちに逃げた方がいい!アオイの怪我の状態も分からねぇッ…。アイツがどっか行ってる今しかもう逃げられねぇかもしれねえんだぞ…!?」
アトラスの言う通りだ。
(…アルの言葉は正しい)
「……はい。わたしも、そう、思います」
「ぅぅぅ…」
アトラスの言っている事はよく理解できる。
しかし___ノルンは、自身の手を目一杯に握りしめ懇願するポーラを見つめた。
ノルンの瞳が揺れる。
ノルンは後方に倒れ込むアオイに一度視線を移して切なげに顔を顰めたあと、胸の前で片方の手をぎゅっと握る。
そして、一度両目を強く閉じると眉を顰めたままゆっくりと瞼を開けた。
「___けれど、もう…し訳ありません。一度様子を見に行かせては貰えませんか」
どうしても怪我人を、置きさってこの場を立ち去ることはできない。
仲間からすれば仲間を危険に晒す行為であることは重々承知している。
アオイを振り返っては罪悪感が募る。
仲間失格もいい所だ。
けれど、それでも___どうしても。
このまま立ち去ることは心苦しい___。
それが、ノルンの心からの本心だった。




