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norn.  作者: 羽衣あかり
“少年と少女”
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20.再開

 しかし僕がウール族の彼に夢中になっていた時だった。次の瞬間、綺麗で控えめな、でもとても透き通った声が聞こえた。


「…アル」


 ウール族の彼から目を離す。

 声のした方を見れば、何故、今まで忘れていたのかと思うほどに、目を奪われていた人がそこにはいた。

 その人は自分と同じくらいか、少し下くらいの少女だった。


 美しいホワイトブロンドの流れるような柔らかいウェーブのかかった髪。太陽の光に透けてきらきらと所々白く輝いていた。目には細く細く長い髪と同じ色のまつ毛。そのまつ毛はふせる瞳には美しいなんともいえない美しい青。真っ白な肌に控えめな桃色の唇がついている。


 こちらを見ていた訳では無いのに、全身がぶわあぁぁぁ、鳥肌をたたせた。

 とても、可愛らしい、少女がそこにはいた。

 声を出す暇もないほどアオイは緊張していた。鼓動は今まで生きてきた中で一番と言っていいほど音を立て、頬は火照り、身体は熱を持っていた。

 そんなアオイを他所に目の前の彼女らは話し出した。


「おう!待たせたな!」


 そんなことはない、と言うように彼女は顔色一つ変えることなくゆるく首を振った。


「早く行かないとな」


 そして今度は彼の言葉に小さく頷いた。

 しかし少女は歩き出そうとして、もう一度目の前にいるアオイに視線を向けた。

 そしてしばらくじっと見る。

 単純に少女の目の前にアオイが立ち塞がっていたためである。


「…え、えっ、と、あの、あ…道を塞いでごめんね」


 何となく年下な気がしてタメ口を使ってしまった。初対面の人なのに。それにしても、じっとその宝石瞳に見つめられてアオイはうまく言葉が出ない。

 しかし少女はアオイの言葉に、何を言うでもなく、ほんの少し口角を上げて薄く微笑んだ。

 ドクン。

 この数分で何度目か分からない音で心臓が鼓動を立てた。もう何が何だか分からなくて、色々と限界だ。

 とりあえず、目の前にたっていては邪魔だろうと、何とか、身体を横に避ける。

 しかし思わぬ言葉がアオイの耳に届く。


「あ、そうだ。このにいちゃんに聞いたらどうだ?」


 なんの事か分からないけれど、彼の言葉に少女は少し考えるように間を開けるとゆっくり頷いた。

 そして、少女はもう一度真正面からアオイの瞳を覗き込むのだった。


「…すみません。私達、この村のハンナ様という方に会いに訪れました。お家をご存知でしょうか」


 歌を歌うように、滑らかにソプラノの声が響く。

 緊張でどうにかなってしまいそうだったアオイの耳に知っている単語が聞こえてくる。

 そして、その事に少しだけ、何故か安心してゆっくり吐息を吐くことができた。

 そうすると少しだけ心臓の音が収まったように感じた。


「ハンナさんなら村の少し奥に家があります」

「…そうですか。教えて頂きありがとうございます」


 何とか答えると彼女は表情を変えることなく、丁寧に頭を下げた。

 二人と一匹。いや、一人と二匹、なのだろうか。正確な数え方がわからない。そう特徴的な二人を意識してもう一つ大きなことを忘れていた。そう。彼女達は大きな真っ白い毛並みの狼を連れていたのだ。

 狼…?そして金髪の女の子。

 アオイはウール族と話している少女に目を向ける。目が合った瞬間から本当は今までにない直感があった。

 …今朝、夢に見た女の子だと。そしてそれを隣にいた狼が今、決定づけた。

 確かに、あの時の女の子だ、と。しかしアオイにお辞儀をした少女を見ればもう数歩歩いた先にいた。


 すれ違いざま、狼の目に射られそうだった。先程とは違う意味で心臓が音を立てていた。もうそろそろ心臓の過重労働で止まってしまうのでは…、と思うほどこの数分でアオイの心臓はいつもの何十倍も動いていた。


 やはりあの日、幼い頃、数時間だけ一緒にいた自分のことなど覚えていないだろうか。その隣にいる狼はあの時探していた狼なのだろうか。もう一度会いたいなぁ、と現実味のないことを考えていた彼女が今、なんの偶然か、神の悪戯か、目の前にいた。

 ハンナさんの知り合い…。だとしたらまたここを訪れるのだろうか。いや、でも十年以上の時間が経ち、彼女はもう一度、今、初めてこの村に訪れた。

 本当にまた来るだろうか。そんなことはわからない。今日を逃せば、もう二度と会うことは無いかもしれない。そう思ったら瞬間、アオイは声を出していた。


「っあの」


 ハンナさんの所まで案内しましょうか、と。

 アオイの声にゆっくりと少女は振り返る。少し驚いていた様だが、ウール族の彼と一瞬目を合わせたあと、また、少しだけ頬を緩めて「お願いします」と言ってくれた。

 自分で言ったくせに、断られなかったことにアオイは安堵してそっと息をつくのだった。






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