205.不審者情報
アランから届いた分厚い手紙にノルンは静かに視線を落とす。
手紙の内容は基本的には心が和む内容だった。
最後の一枚以外は。
「魔物、か」
「はい」
アランの手紙の最後には、ここ最近で魔物の出没情報が急激に相次いでいるため、ノルンにも注意をして欲しいという事が記されていた。
「…確かに、ここ一年でギルドの討伐依頼が増えた気がするなぁ」
「あぁ」
実際ノルン達も旅の最中に魔物に出くわすことは珍しくない。しかしその頻度はやねり以前よりも増加し、また魔物自体の手強さも高くなっているように感じた。
「…そうかもしれません。アランの言う通り気をつけて進みましょう」
「そうだね」
「あぁ」
アオイとアトラスの返事を聞いてノルンは再び手元の手紙に視線を落とす。
魔物についての注意喚起の後に続いていたもう一文。
その一文を読み終わるとノルンは静かに口を開いた。
「…アランからもう一つ注意して欲しいとのことが」
「ん?」
アトラスが首を捻ってノルンを振り返る。
ノルンは手紙から顔をあげるといつもと変わらぬ隙のない表情で淡々と告げた。
「どうやらここ最近、この地方の周辺で不審者情報があるとの事です」
「不審者?」
「はい」
アランの手紙には魔物への注意と共に、ここ最近危険視されている不審者への注意喚起が記されていた。
アオイは少し不安げな表情を浮かべ首を傾げる。
「アオイ〜。ふしんしゃって何〜?」
「う〜ん。怪しい人、の事かなぁ…」
「おう。変な奴にはついて行くなよ?ポーラは俺たちから離れないようにな」
ポーラはいまいち不審者という言葉について危機感を抱いていなかったが、アトラスの言葉には元気よく頷いて見せた。
「それで?どんな奴なんだ?」
ポーラの返事によし、と満足そうに頷いたアトラスが再びノルンに視線を向ける。
ノルンはアランからの手紙をリボンで巻き直すと丁寧にそれをトランクにし舞い込む。
「…はい。どうやらその方は無差別で出会った人々に襲い掛かるそうです」
「え"っ…」
「…ほぉ〜」
ノルンがアランからの手紙に記されていた内容を思い出して告げればその瞬間、アオイは顔を青ざめさせアトラスは眉を顰めて頷いた。
「既に鷹の騎士様数名と商人の方で被害に合われた方が出ているそうです」
「なるほどな」
「ぇ…えぇぇぇ…」
冷静に頷くアトラスとは違いアオイの顔面は蒼白だ。
「アオイさん。大丈夫ですか」
「…う…うん。…大丈…いや、ごめんね。ちょっとびっくりしちゃって…」
「はい。少し休憩されますか?」
「…ううん。大丈夫。ありがとうノルンちゃん」
アオイの不安げな表情に思わずノルンが声をかければ、アオイはノルンを見つめ、少し落ち着いたのかくすりと笑みを零して、眉を下げ優しげな笑みを浮かべた。
「この地方はかなり広いし滅多に会うこともないだろ。まぁ情報があるに越したことはないけどな」
「はい」
アトラスはアオイを安心させるようにいつも通りカラッと言い放って笑う。
元国家騎士団副隊長を務めていたこともあり、アトラスの言葉は頼もしい。
アオイも先程よりは顔色が良くなったようで、そうだよね、と頷いて少し安心したように息をついた。
*****
しかしそれから数時間後___。
運命とはそう上手く回ってはいないということをアオイは思い知らされた。
現に今、突如現れた謎の人物によってノルン達は攻防を繰り広げていたのだから___。
「何故私達を襲うのですか」
「んん?…そうだな。答えはお前たちがそこに居たから___だな!?」
「答えになっていません」
「はは!そうかァ!だが俺には関係ねェッ!」
___時は数分前に遡る。
ノルン達は次の目的地に向けて歩みを進めていた。
しかしその最中突然何やら唯ならぬ気配がノルン達に襲い掛かった。
突如アトラスの「ノルンッ…!!」という叫びが響き、即座にノルンはその先を聞くまでもなく、防御結界を張った。
そして次の瞬間には防御結界に何かが勢いよく衝突した音が響いた。突然の衝撃音に森の動物は勢いよくその場を去り、鳥は飛び立った。
防御結界の内側で瞳を細めたノルンが次の瞬間目にしたのは防御結界を隔ててすぐ外側で血走った瞳と不気味な笑みでノルンを見つめる男だった。
「なっ…!?」
「…おいおいッ」
アオイとアトラスが驚く間もなく、男は舌なめずりをすると、好奇心に満ちた瞳で満足そうに笑い話し合う余地などなく、次の瞬間再びにノルン達に攻撃を降り注いだのだった。




