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norn.  作者: 羽衣あかり
“少年と少女”
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16.朝

 ___幼い女の子がいる。その女の子は一人でなにかを探すように当たりをキョロキョロとしている。


 ここは僕が暮らす小さな村だ。何処にでもあるようなそれほど大きくない村で周りを木々に囲まれた自然豊かな村。


 赤茶色の煉瓦造りの建物にはあちこちに色とりどりの花が飾られている。“花のまち”と呼ばれることもある。実際には街と呼ばれるほど大きくは無いこの村だが、その美しい景色は有名で多くの旅人が年間を通して訪れる。


 そんな村の入口あたりだ。まだ幼い女の子が一人で立っている。この村の子どもではない。そんな女の子に一人の男の子が駆け寄っていった。男の子は女の子の傍まで行くと「どうしたの?」と声をかけた。


 女の子は少し驚いたようにビクリと肩を震わせた。そして女の子が振り返った。その瞬間に男の子は息を呑み、呼吸を忘れる。


 振り返った女の子は一言で収めるならば男の子が今までに出会った誰より美しかった。いや、実際には女の子のため可愛らしかった、が正解かもしれない。


 けれどやはり、可愛らしいという言葉だけに収まらないような、神秘的な_他の例えで言うならばこの世の同じ生物とは思えないように。


 この後、女の子が美しい宝石眼に僕を捉えて、口を開く。

 そう。そして女の子はこう言う。


「……_____


「アオイ~起きた~?」

「………」


 女の子の視界に驚いた自分の顔が映ったかと思ったその瞬間。急に自分の思考の外から声が聞こえた。そう、あの男の子は幼い頃の僕だ。そして一気に女の子は姿を消し、一瞬でシャットアウトされ真っ暗になった視界に今度は眩しい光が差し込んできた。


 瞼を開ける前に耳に心地の良い鳥のさえずりが届く。瞼を開けずとも眩しい光が外に広がっている予感がする。実際にゆっくりと瞼を開ければ眩しい太陽の光が目いっぱいに飛び込んできた。眩しい光に目が慣れず、反射でもう一度目をぎゅ、と瞑る。


 もう一度、数秒してからゆっくりと今度は覚悟して目を開ける。やはり眩しい。けれどしばらく頑張って顔を顰めながら細々と開けているとゆっくりと眩しい光に慣れていく。


 そこで改めて暖かな温もりが残る毛布を離したくないなぁ、と思いながらもゆっくりと持ち上げる。

 何となく数回瞬きをしたあと、部屋を見渡せば、いつもと何ら変わりない自分の部屋だ。


「アオイ~?」


 もう一度自分の名を呼ぶ声が聞こえる。

 階段下からだ。母が呼んでいる。


「おきた~…」


 まだ覚醒しきっていない脳で、階段下に向かっていつものテンプレを言う。声は喉が乾燥しきってガラガラだ。


 ゆっくりと伸びをしてから立ち上がり、寝巻きの適当な服装から着替える。

 着替え終わってベッドの横のカーテンを開ければ澄み切った青空と明るい光が部屋いっぱいに差し込んだ。


 今は四月の終わり頃。ここは四季があるものの年間を通して比較的暖かい地域で、最近では日中暑いと感じる日も出てきていた。


 部屋の扉を開けて階段を下に降りていく。すると香ばしいいい匂いが鼻を満たす。

 今日の朝ごはんはパンとベーコンエッグかな。

 そんな予想を立てながら、階段をおりてすぐのキッチンに入る。


「おはよう」


 そうキッチンに立っている女性。母に声をかける。

 すると母は一瞬、火から目を離して僕を視界に入れるとにっこり笑った。


「おはよう。アオイ。ふふ。今日は寝癖がすごいのね」

「え」


 なんとなくどこかも分かっていないのに、後頭部を手で抑える。寝癖がついているかは分からなかった。

 歯磨きをしに、一度洗面所へ行く。そしてそこの鏡に映る自分の姿を見て少し笑ってしまった。

 確かにすごい寝癖だ。後頭部上部の髪が見事にピョンとまるで角の様に立っている。


 ジャー。顔を洗ったあと水で寝癖部分を濡らしてからタオルでゴシゴシとふく。どちらかというと柔らかい毛質である黒の髪は大人しくぺたりとした。


 歯磨きを済ませて、キッチンへ戻る。中央にある四人がけのダイニングテーブルに腰かける。四人がけではあるもののテーブルに置かれている食器は二人分。自分と母の分だ。


 別に何か特別な事情がある訳では無い。自分は父、母、双子の兄、自分の五人家族であるが、父は冒険家であまり帰ってくることがない。別にそれで父と仲が悪いという訳では無い。年に数回帰ってきてはたくさんのお土産を持ち帰ってくる。母もそんな父に理解を示している。自由人な兄二人は一週間旅行に出かけている。


 兄二人に誘われたが、僕は母を手伝うために残った、というだけの話だ。


「はい。朝ごはん。お待たせ」

「ありがとう。いただきます」


 熱々のフライパンから乗せられたのはやはり黄身がとろけそうなベーコンエッグ。

 そしてふわふわのパンをちょうどよくカリッとなる程度に焼いて、その上に乗せられたじゅわりととろけるバター。口に含めば香ばしい匂いとバターのなんとも言えない食欲をそそる香りが心地よく胸を満たした。


「うん。美味しい」

「よかった」


 ふわりと微笑みながら、母も自分の皿に同じものをよそって席に着いた。



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