163.封印失敗
ナイトキングとの戦いが始まり、十数分ノルン達は苦戦を強いられていた。
アオイが主にナイトキングの斬撃を受け止め、その内にノルン、アトラスが攻撃をする。
しかし未だこれといって致命傷に至るものは与えられておらず、このままではアオイの体力が尽きる方が先だ。
広い室内とはいえ、戦闘をするともなれば動きづらい。特に部屋中に立っている石柱は攻撃を避けるのに適しているが、その分攻撃も通りづらい。
しかしナイトキングにはどうやら当てはまらないようだ。
ノルンはアオイがナイトキングの剣戟を受け止めた隙に今一度攻撃魔法を放つ。
「物理攻撃魔法」
ノルンの放った魔法は石柱の間をすり抜けて凄まじい速さでキングナイトの胸にぶち当たる。
(…恐らく全く効いていない)
キングナイトは数歩よろけただけで、先程のアンホーリーナイトの様に膝を着くことすらしない。
魔法が命中した瞬間、アオイと対峙していたナイトキングがぐるんと頭部を回しノルンに顔を向けた。
ノルンはすぐさま柱に身を隠す。
キィン、という空気をも切り裂くような音が響く。
「…っノルンちゃんッ…!!」
一瞬遅れてアオイが名を呼んだ。
「ノルン!上だ!!」
そしてアトラスの声も。
アトラスの声に反応してノルンが上を見上げれば、背後の石柱に大根でも斬ったかのような綺麗な線が入り、ノルンの頭上に倒れ込んでくる石柱の影がさした。
ノルンの瞳が見開かれる。
このままでは瓦礫に押しつぶされて死ぬ。
しかしノルンは特に慌てることもなく杖を向けると薄い唇を開いた。
「物体を浮遊させる魔法」
ノルンの放った魔法が石柱に命中する。
するとそれはさも発泡スチロールで出来ているかのようにふわりとノルンの頭上すれすれで浮いたのだった。
そしてそれはノルンを避けてノルンの背後に落下した。大きな落下音が響き巻き起こった風にノルンの髪が揺れる。
キングナイトはアオイに斬りかかる。
アオイも必死に斬撃を受け止めているが、その重さに顔は歪み、足も少しずつ後退していく。
(…何か打開策は…)
ノルンは再びアオイの防御を行いながら攻撃魔法を繰り出す。
そこでノルンの足元にアトラスが降り立った。
「このままじゃジリ貧だ。ノルン、さっきの凍らせるやつ出来ないのか?」
「…当てることは恐らく可能かと」
ノルンが曖昧な言い方をしたのはキングナイトを氷塊に閉じ込めたところで封じ込められるとは思わなかったからだ。
先程よりも大きな身体に圧倒的な力。
それでもアトラスはやってみてくれ、とノルンに頼んだ。
「了解しました」
再び柱に背中を預けて隙を窺う。
そしてアオイの剣がキングナイトに弾き返され、アオイが宙を飛ぶ。
キングナイトはアオイが着地した瞬間を狙って勢いよくアオイをおいかける。
しかしキングナイトがアオイにたどり着く前に美しいグランディディエライトの瞳が立ふさがる。
少女は真っ直ぐ帰って走ってくるキングナイトに杖の切っ先を向け呟いた。
「氷を操る魔法」
勢いよく放たれた光線にキングナイトも思わず足を止め、頭部を庇うように両腕を顔の前に交互させる。
しかしその瞬間訪れたのは今までノルンが放っていた物理攻撃魔法ではなくキングナイトの全身を覆うほどの氷塊だった。
キーン、という甲高い音が耳の奥でなった様な気がする。ぶわっと辺り一帯冷気に包まれ、冷風が巻き起こる。
髪が波打ち、前髪も揺れる。
風が収まってぼんやりと視界の先に生成された巨大な氷塊に視線を移す。
その中に薄らと黒い影が出来ている。
ノルンがそっと近づいて氷塊を覗き込むとそこには、氷塊の中心でさもそういう置物であるようにキングナイトが静止していたのだった。
「………………」
氷塊の前で佇むノルンにアトラスが駆け寄る。
「よくやった!ノルン!」
「…いえ」
しかしノルンの顔色は未だ険しい。
そしてじっと静止したキングナイトを凝視する。
「お〜綺麗に固まってんなぁ」
アトラスが大きな瞳で氷漬けにされたキングナイトを眺める横で、一瞬ノルンはピクリと眉を動かすと目を見開く。
「アル…!」
「うぉわ…!?」
ノルンはアトラスの名を呼ぶとその身体を胸の前で抱えて一気に後退した。
アトラスは何がなにやら分からずノルンの腕に掴まり
目を丸くしている。
そしてノルンが氷塊から離れた瞬間は異変は訪れた。
ピシリと音がしたと思えばまるで雷にでも撃たれたかのように分厚い氷塊に一筋のヒビが入った。
「何っ…!?」
「えええっ…!?」
ノルンに抱えられたままのアトラスと、既に疲労困憊のアオイがまさか、と言ったふうに目を丸くする。
それと同時に激しく氷が割れる音が響いたかと思えば、ナイトキングを封印していたはずの氷塊は見事に2つに割れ、中心のナイトキングのあるはずも無い瞳がノルンたちを睨みつけたように感じたのだった。
 




