162.戦闘再開
魔鉱石を前に頭を捻っていたノルン!アトラス、アオイの三人。
そこに突如何かが倒れるような倒壊音と爆風が三人を襲った。
ドゴォンッ、と何かが倒れる音と共に地面が振動する。
「えっ!?何!?」
爆風がやんだ頃に三人は音のした背後に身体を向ける。
そこに広がっていた光景に三人は息を呑む。
大きな倒壊音は恐らく地面に転がっている石柱の半分。それはまるで包丁で野菜を斬ったかのようにすっぱりと切断されている。石柱の背後にはそれを行ったであろうアンホーリーナイト。そして崩れた石柱の根元には柱によりかかりながらぶるぶると震える小さなシロクマがいた。
「ポーラ…!?」
「まずいっ!」
状況は分からないが、確実にわかること。
それはとりあえず、ポーラの危機ということだ。
ノルン達が目を見開いている間にも一際大きいアンホーリーナイトは両手で刀を握ると思いっきりそれを振り上げた。
この距離ではノルン、アオイはおろか身体能力の高いウール族のアトラスでも間に合わない。
「危ないっ…!!」
剣が振り下ろされる。
その瞬間小さなシロクマことポーラは大きな泣き声を上げ、大きな瞳から滝のように水を溢れさせた。
空間に甲高い音が響いた。
アオイがはっとして反射的に閉じてしまった瞳を開けば、そこには石柱に剣を突き刺したアンホーリーナイトが居た。
そこは先程ポーラが居た場所で、そこにポーラは居なかった。
「ブラン」
ノルンが相棒である白狼の名を呼ぶ。
アオイがノルンを振り返ると、ノルンの元にポーラを口にくわえたブランがいた。
「ポーラ!?…良かったぁぁぁ…」
「ふぅ」
アオイは思わず失神して白目を向いているポーラを腕に抱きしめる。
ブランはノルンに褒めて貰えたようで満足気だ。
しかしポーラを助けたことにより、一つの視線がノルンらに突き刺さる。
「ったぁく、やっと終わったと思ったんだがな」
「…どうやら私たちが次の標的のようですね」
「だな」
「えっ」
ノルンとアトラスの言葉にポーラの無事を喜んでいたアオイは身体を硬直させる。
アトラスは既に二丁拳銃を手に持っており、ノルンも既に戦闘態勢に入っている。
「あのアンホーリーナイトは先程戦ったアンホーリーナイトよひ大きいように見えますが…」
「おう。ノルンの言う通り。あれはアンホーリーナイトキング。略してナイトキングってやつだな」
「ナイトキング…っていうとつまり」
アオイはブランに腕の中のポーラを預けると自身も鞘から剣を取り出す。
アオイが言葉を続けようとした時だった。
こちらを睨むように仁王立ちしていたナイトキングが剣を頭上に振り上げ、そして一気に振り下ろした。
「避けろ!!」
アトラスの声に反射的にノルン、アオイ、ブランが飛び上がる。
攻撃を避けた先で先程自分たちがいた場所を振り返ればナイトキングの足元からノルン達が立っていた場所まで綺麗に一本の道ができ、石の地面がえぐれていた。
「…っ…!」
「…その通り。つまりはさっきの奴らより格段に強いって事だな」
冷や汗を垂らすアオイの元に足音もなくアトラスが降り立つ。
ごくりとアオイは生唾を飲む。
しかし緊張に身体を強ばらせるアオイとは真逆にやはりアトラスは飄々としていて口角は上がっている。
「アオイ、ノルン。気をつけろよ。ノルンは特に俺かアオイの背後に常にいろ」
「了解しました」
「さて、アオイ。すまねぇが…」
アトラスが口角を上げたままアオイを振り返る。
そこでアオイは首を傾げていたが数秒してアトラスの言いたいことを理解すると顔を青ざめさせた。
「…えっと…僕が、受け止めるのかな…」
「おう」
「…あの剣を…?」
「おう!」
アオイの顔から血の気が引いて、空いた口が塞がらない。ノルンが心配げにアオイを窺う。
「…アオイさん。大丈夫ですか」
「…うん、大丈夫。大丈夫」
そこでアオイははっとすると一度深く息を吸って脳に酸素を送ると、ゆっくりと吐き出す。
そして決心したように両手で剣をナイトキングに向けて構えると、ゆっくりと瞳を開いた。
透き通るアクアマリンはもう決意を固めたかのように揺れることなくナイトキングを見据えていた。
「…うん、頑張るよ」
「よし!その意気だ。ま、俺とノルンがサポートするから安心していい」
カチャカチャとアトラスが弾を装弾し、アオイに笑いかける。アトラスの後ろではノルンも頷く。
「防御はお任せ下さい」
「…ありがとう、ノルンちゃん」
アトラスとノルンは強敵を目前にしても一切調子を崩すことは無い。
気づけばアオイは頼もしい仲間に安心し、表情を緩めていた。
そしてしっかりと見定めるように両のアクアマリンにナイトキングを捉えるのだった。




