160.撃破と魔道具
アンホーリーナイトの剣先をすんでのところで躱し間合いを取りつつノルンは防御、攻撃魔法を交互に繰り出していた。
それでも攻撃はどれも決定打にはかけ、アンホーリーナイトはすぐに復活しまた襲いかかってくる。
ちらりと一瞬周囲を見渡せば、アオイもまた同じような状況だった。
そして先程一体のアンホーリーナイトを倒したアトラスはといえば、ブランの元へ加勢していた。
アトラスから先程アンホーリーナイトの核を教えてもらった。魔物もまた人間と同じように損傷すれば命を失う器官がある。それが核と呼ばれるものだ。
アンホーリーナイトの核は胸部中心にあると言うことはアトラスから聞いたのだがどうしても隙と威力が足りない。
先程普段ノルンが用いる物理攻撃魔法は衝撃を与えるだけで鎧の装甲を破ることは出来ないと分かった。
そこで一瞬、ノルンはある考えにたどり着く。
(………倒せなくても動きを封じればいいのでは)
ノルンはそう脳内で考えるとすぐさま杖の切っ先をアンホーリーナイトに向ける。
そして杖から魔法を放つ。
「氷を操る魔法」
杖の切っ先から閃光が弾け飛びそれはアンホーリーナイトに勢いよく衝突する。
冷風が巻き起こる。
一瞬の間を置いて風が止む。
そしてゆっくりとノルンが目を開いた時には目の前には大きな氷塊があって、その中に見事アンホーリーナイトは閉じ込められていた。
透ける氷塊の中光る金属の塊にノルンは静かに安堵の息をついたのだった。
「よくやった…!ノルン!」
アトラスの声に頷き、すぐさまノルンはアオイの元へと移動する。
「ノルンちゃん…!」
「アオイさん。隙を見て私が敵を凍らせます」
「了解」
重い剣を受け止めるアオイに告げればアオイは頷く。
そして激しい攻防が繰り広げられるのを観察しつつ隙を窺う。
何度も剣の交わる音が響く。
そしてアオイが剣を弾き返し、アンホーリーナイトの体制が崩れる。
その一瞬をノルンは見過ごさなかった。
アオイがアンホーリーナイトから距離をとった瞬間、ノルンは口を開いた。
「氷を操る魔法」
再びノルンの杖から閃光が弾け飛び、アンホーリーナイトに当たると冷風が巻き起こる。
そして冷風がやんだ頃にはノルンとアオイの目の前には先程のアンホーリーナイトと同じように氷塊に閉じ込められたアンホーリーナイトが居たのだった。
アオイの表情が緩む。
「ノルンちゃん、ありがとう」
「いえ。アオイさんのおかげです」
「ううん、僕だけじゃ勝てなかったから。ってそれよりアトラス達は…」
アオイの言葉にノルンもアトラス、ブランの方に目をやる。するとそこには丁度アトラスが放った弾丸が胸に命中して崩れ落ちるアンホーリーナイトがいた。
ふぅ、とアトラスは息をつくとくるくると二丁拳銃を指で今日に回転させてホルダーにしまう。
「アル。ブラン」
「ん?おう!どうやらそっちも終わったみたいだな」
「うん。ノルンちゃんのおかげで」
「そっか。ん?ポーラはどうした?」
「あはは…気絶してるみたい」
「…そうか」
アトラスとアオイの会話の横でノルンは擦り寄ってきたブランの頭を撫でてやる。少し頭をかいてやるように指を動かせばブランは気持ちが良さそうに目を細めた。ブランに表情を緩ませたあとでノルンは改めて部屋の内部を見渡した。
先程は一瞬間にアンホーリーナイトに襲われしっかりと周囲を観察できなかった。
薄暗い室内。数本の石柱以外は何も装飾のない広いホールのような場所。太く脊柱に絡みつく木の幹。
光を灯すのはぼんやりと青白く光る黒く大きな鉱石くらいだ。
ノルンは一人部屋を見回るようにして歩く。
コツコツ、とダークブラウンのブーツが響く。
太い木の幹に触れる。乾いた木皮だ。
そしてノルンは光を灯す鉱石の前までやってくると物珍しそうに鉱石を撫でた。
「ノルンちゃん?」
「ん?お、魔鉱石じゃねぇか」
興味深しげに鉱石を見つめていたノルンの背からアトラスとアオイが話しかける。
アトラスの言葉にノルンは思わずこれが、と呟く。
アオイは初めて聞いた言葉なのか首を傾げている。
「魔鉱石?」
「おう。聞いたことねぇか?」
「うん、初めて聞いた」
アオイはアトラスに頷くとぼんやりと淡く青白く内側から光を灯す魔鉱石を眺める。
「ほら、魔道具ってあるだろ?」
「あ、うん。それなら分かる」
魔道具とは魔法使いでなくても扱える魔法の道具である。アトラスは「あ、丁度いいのがあるぜ」と言うと腰のホルダーから一丁拳銃を取り出す。
そして拳銃をアオイに見せる。
「もしかしてこれも魔道具なの?」
アオイが驚いたように言えばアトラスはおう、と笑って頷く。それについてはノルンも知らなかった。
魔鉱石の前に落としていた腰を上げるとノルンもアトラスの話に耳を傾ける。
「俺の拳銃も魔道具の一種だ。普通の弾丸を撃つ事も出来るが、もう1つ特別な弾も撃てる」
「あ」
そこまでアトラスが言うとアオイは思い当たることがあったのか声を漏らす。
「もしかしてさっきアンホーリーナイトを倒した時の弾って」
アトラスはアオイの言葉に正解と言うように口元に笑みを浮かべると頷く。
「おう。アオイの言う通りだ。さっきのは特別な魔力弾を使った。普通の弾じゃ倒せなさそうだったからな」
「そっかぁ。だから弾が貫通したんだね」
「そういう事だ」
そこでアトラスはおっと話が逸れたな、と言うと改めて生成されている魔鉱石に視線を移したのだった。




