159.邪悪な騎士
ガチャガチャと金属でできた鎧同士が接触して音を鳴らす。
アンホーリーナイトと呼ばれた魔物はゆっくりと一歩一歩、壁を背に冷や汗を流すノルン等に近付く。
その数は四体。
何故か部屋の最奥中心にいるアンホーリーナイトだけは部屋に入った時同様固まって動く気配は無い。
近づいてくるアンホーリーナイトを見据え、冷や汗を垂らしたアオイもまた腰から剣を抜き構える。
ノルンも片手に杖を出現させるとしっかりと握り、戦闘態勢に入った。
「来るぞ…!!」
アトラスが叫んだと同時に一体のアンホーリーナイトが突如踏み込んで斬りかかってきた。
すんでのところでアオイが反応し剣を受け止める。
剣と剣が混じりあった瞬間激しい金属音が響き爆風が起こる。
「アオイ!」
「大丈夫…!…でも…すごい重さだ…っ」
剣を受け止めるアオイの腕は震え、力に耐えるようにアオイは歯を食いしばった。
ノルンはアオイがアンホーリーナイトを抑えてくれている間にすかさず呪文を放つ。
「物理攻撃魔法」
その瞬間杖の先から繰り出した光は勢いよくアンホーリーナイトに衝突する。
再び爆風が起こり、胸部中心に攻撃を食らったアンホーリーナイトは勢いよく後ろへと吹っ飛ぶ。
「上だ!」
気を抜く間もなくアトラスが叫び上を見上げる。気づいた時には真上に飛び上がった別のアンホーリーナイトが剣を振り上げていた。
「物理防御魔法」
ノルンがすぐさま防御魔法を唱え魔法を放つ。
それはアンホーリーナイトが剣を振り下ろすのほぼ同時で、ノルンの結界とアンホーリーナイトの剣先が衝突した瞬間バチバチッと電気が走ったような音が響き、微かに地面が振動する。
「任せろ」
アンホーリーナイトが後ろへと飛んだ瞬間ノルンが結界を解除しアトラスが弾丸を撃ち込む。
二発の弾丸が飛び出しそれは見事鎧の胸部中心に命中したものの、鎧の装甲を破ることは出来ず、鉄の鎧に弾痕を残すだけだった。
「クソ、さすがに無理か…それなら」
「アトラス!後ろ…!!」
眉間を寄せたアトラスはそう呟くとすぐ様後ろから斬りかかろうとしていた別個体に身体の向きを変える。
そしてアンホーリーナイトが剣を振り切った一瞬、鮮やかに身体を剣の下に滑り込ませると、一瞬で真上に飛び上がる。
アンホーリーナイトが上空に飛び上がったアトラスを振り返った時だった。
アトラスは拳銃の引き金に指をかける。
その瞬間アトラスの握る拳銃の植物模様のような装飾を流れるように光が走る。
そして空を切るような一発の弾音が響いた。
「これならどうだ」
そう呟いて放たれた一発の弾丸は今度は鉄の鎧をも貫通し見事アンホーリーナイトの胸部を貫いた。
「えっ…鉄の鎧を貫通した…!?」
「アオイさん…!」
「…っ…!」
アトラスの戦闘に目を奪われていたアオイにノルンが目を見開いて名を呼ぶ。
アオイにもまた別のアンホーリーナイトが襲いかかろうとしていた。アオイは何とか反応すると攻撃を避ける。
ノルン、ブランもまたそれぞれの個体と戦闘に入っていた。
アトラスは目の前のアンホーリーナイトから距離をとって次の動作を見極める。
しかし拳銃を構えたアトラスに次の攻撃が降りかかることはなく、アトラスが撃ち抜いたアンホーリーナイトは大きな音を立ててその場に崩れ落ちた。
「えっ!?」
ガシャアンッ、と響いた大きな音に戦闘の最中であるアオイとノルンも一瞬アトラスが対峙していたアンホーリーナイトに目をやる。
背中を向けるアトラスの前方に崩れた鎧が垣間見える。
「こいつらの核は胸部中心だ!そこを破壊しろ!」
アトラスの声を聞き届けたノルンは防御魔法で身を守りつつ目の前のアンホーリーナイトを見据える。
(………胸部中心)
後退しつつ、鎧の胸中心を注視する。
その間にもアンホーリーナイトはすぐさまノルンと距離を詰めては襲いかかる。
その度に防御魔で身を守ってはいるものの、これでは防御ばかりで攻撃に転じられない。
ノルンからしてみればアンホーリーナイトとの相性は最悪だった。
ノルンは攻撃にも有効な魔法を数多く扱えるが、基本は中距離、長距離を得意とする。
近接特化型のアンホーリーナイトとは相性が悪い。
せめて最初のように近接戦を得意とするアオイやアトラスを挟んでのサポートなら戦えないことは無いのだが。
ノルンはアンホーリーナイトの攻撃を身軽に躱しつつアンホーリーナイトを倒す算段を考える。
ちなみにノルンの背中ではポーラが恐怖から泡を吹いてノルンの肩にしがみつくことだけに心血を注いでいた。否、もう意識は無いのかもしれないが、ノルンの肩だけは離すまいというように小さな手はがっちりとノルンの肩を掴んでいた。




