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norn.  作者: 羽衣あかり
“白狼と少女”
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15.再開

 ひとしきり涙を流したあと、ノルンはそっと未だ涙が乾ききっていない瞳でブランの顔を覗き込んだ。

 洞窟の中でまるで星のように輝くグランディディエライトは狼の透き通ったアクアマリンの瞳と交わる。

 そして、少女は狼の額に自身の額を付ける。そしてお互いの額を合わせてまるで、雪の花が綻んだかのように微笑んだ。


 ノルンはそっと涙を拭うとブランを見つめ直した。

 いつの間にかアトラスも隣に来ていた。

 ノルンはアトラスの気配を感じると振り返る。

 そこには優しい瞳でノルンを見つめるアトラスがいた。

 そして、


「ノルン。よかったな!」


 と言って気持ちよく笑った。

 ノルンははい、と未だ膜を貼った瞳でそれは柔らかく瞳に弧を描く。その顔は幸福に満ち溢れていた。





 ◇◇◇





 洞窟から出たブランの毛色は灰色がかっているものの、その下には白くふさふさとした綺麗な毛が見え隠れしていた。


 また一週間ほどの旅を経て、フォーリオへ帰った時にはフローリア、レオ、アランが皆目を丸くしていた。

 まずはノルンの無事を喜び、そしてノルンと一緒に帰ってきた一体のウルガルフにそれはそれは驚いていた。


 フローリアはどこか縁に涙をため、この子が…と呟くと、優しく頭を撫でていた。


「まさか、本当に見つけてくるなんて…」

「あぁ。だが、二人が無事また再開することが出来て何よりだ。本当に…良かったなぁ、ノルン」


 レオは信じられない、とでも言うように。アランは驚きつつも心から嬉しそうにノルンを抱きしめていた。


 その後家に帰ったノルンは湯船いっぱいにお湯をはり、未だ傷のあるブランの身体を丁寧に優しく洗い流した。

 暖かいお湯と泡立つ石鹸で身体を洗い流したブランの毛はまるで雪のように白かった。


「綺麗になったなぁ!こんな色だったんだなぁ。ブラン!良かったな!」


 アトラスは風呂から上がったブランを見て目を丸くしていた。しかし何かに気づいた様に口を開いた。


「なぁ。ノルン。ブランの額の紋様みたいなの…何なんだ?汚れかとも思ったが、今は綺麗に浮かび上がってる」


 ノルンはアトラスの言葉に少し目を伏せて頭を軽く横に振った。


「私にも分かりません。今度師匠(せんせい)に聞いてみようと思います」

「そうか」


 ノルンの言葉に返事をしたあと、アトラスはそっと手に持っていた帽子を被り直した。

 そしてノルンの家の玄関に向かって歩き出す。

 ノルンは何となくアトラスがもう帰る気なのだと感じた。

 しかしノルンがアトラスの名を呼ぶより早く、アトラスが口を開いた。


「なぁノルン」

「はい」


 心地の良い風が窓から入ってきては二人の頬を撫でる。


「ノルンはいつかここを出て大陸を旅するのか?」


 その言葉にノルンは少し驚き息を呑むが、ゆっくりと、しかしはっきりと答えた。


「はい」


 その言葉を聞くと背を向けたままアトラスが笑ったように感じた。


「そうか…!今度は父親を探しに行くんだろ?」

「…はい。今回ブランを見つけることが出来たので。父のことも…探してみたいのです」


 ノルンの考えを見透かすように言ったアトラスにノルンは頷いた。そして、綻ぶように笑った。


「アトラス。本当にありがとうございました。貴方がいなければブランを見つけることは出来ませんでした。本当に感謝しています」

「いいや?俺はただ自分の恩を返しただけだぜ!」


 相変わらず、ずるいアトラスの返答にノルンは表情を和らげる。

 アトラスはそう返すと、それじゃそろそろ行くかな、と歩き始めた。


「もう少しゆっくりして行かなくていいのですか?」

「あぁ。俺もやる事が出来たからな」

「そうですか」


 玄関先まで見送りに来たノルンとブランにアトラスはそう言ってどこか悪戯っ子のように笑う。


「それではアトラス。本当にお世話になりました。またいつか何処かで」

「あぁ!またな!ノルン、ブラン」


 アトラスはいつもの様に清々しい笑顔を見せたあと、振り返ることなく森を進んで行った。

 初めての旅仲間を、少し温かい風が頬をくすぐる中、ノルンはその背中を見送るのだった。


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