147.ようこそ迷宮へ
トレジャーハンターの兄弟と分かれたノルン達は引き続き次の街を目指して歩みを進める。
「ノルン〜さっきの人達は何する人たちなの〜?」
「お宝を求めて旅をされている方々です」
「お宝…!?お宝があるの〜!?」
「はい。この先の古代の迷宮に残っているそうです」
ポーラは先程のトレジャーハンターとの会話の中には入ってこなかった。
どうも髭を蓄えた強面の兄の顔に萎縮していたらしい。
そこで今になってやっと気になっていたことをノルンに聞けば、ポーラはノルンの返答に大きな瞳を輝かせた。
勢いよくノルンの肩口からノルンの顔にぐいっと身体を乗り出すと期待に満ちた声を上げた。
「ノルン〜!僕も行きたい〜!」
「…迷宮に、ですか?」
「うん…!」
ポーラが何度も首を縦に振るとノルンは少し想定していなかったポーラの返事にきょとんとする。
そして思わずアオイとアトラスを見やる。
二人もノルンとポーラの会話を聞いていたらしく、アオイは困ったように微笑みながらポーラを見つめていた。
「ん〜まぁ…行けないことは無いが…いいのか?ポーラ。迷宮には恐ろしい魔物や罠がたくさんあるぞ?」
アトラスは考える素振りをしたあとで予め用意していたであろう台詞を言う。
そしてポーラはアトラスの想像通りの反応を示す。ポーラはアトラスの言葉を聞いて想像通りうえぇっ!?、とぶるぶるっと震えたあとでカタカタと震えた。
「…ま…まもの…わ…わな…」
「おう。そりゃもうたくさんあるだろうな」
アトラスがそこまで言うとポーラは嘆き声を漏らして迷宮と宝を諦めたようだった。
「…ううう…僕…やめる〜…」
「ははは。ま、俺も行ったことないけどな」
「アルもないのですか」
「おう。そういうのには好戦的で適任な奴がいたからな」
鷹は魔物討伐、市民の保護の他にも様々な仕事を抱えている。
迷宮踏破も仕事のうちの一環として行う場合があり、大体鷹の騎士が迷宮を訪れる場合は無謀な挑戦者が行方不明になって後を絶たないからである。鷹側からすれば迷惑この上ないが一般市民が巻き込まれることのないように迷宮攻略を行うことがある。
しかし実際に今まで踏破できた迷宮は両手に収まるほど。この大陸の各地に建てられた古代の迷宮は未だ踏破されていないものも多かった。
「迷宮かぁ。興味あるけど、ちょっと怖いなぁ」
「まぁな。迷宮は帰ってきたやつの方が少ねぇからな」
にこやかに笑いながら話すアトラスにポーラは未だぷるぷるとノルンの肩につかまり震えている。
古代には大きな建造物が多く建築された。その多くは天地創造の神を祀るものであったり、祭事を行う場所であったりと様々だ。それが今では迷宮と呼ばれており、古代の宝を目指して挑むものも少なくない。
「お宝って一体どんなのなんだろうね」
「さぁな。そもそも本当にそんなもんがあるのかすら怪しいけどな」
「そうですね。誰も踏破していないのですから」
「ま、そういうことだ」
談笑をしながら気づけば鮮やかな紅葉が広がる森へと入ってきていた。落ち葉を踏みしめる音と枯れ枝が踏まれて折れる音がした。
ノルンが辺りを見渡しながら歩くと子リスが口を膨らませて一瞬ノルンと大きな瞳を合わせたあと急ぎ足で消えていく。
そこでノルンは表情を和らげながら子リスの後ろ姿を追ってふと道の脇に佇む石柱に気づく。
その時はただ目に止めただけで深く考えることはせず先へと進む。
しかし気づけば石柱は一定の間隔を置いてノルン達の進む道の先へと進んでいた。
ノルンはふと足を止めると一つの石柱に近づいて長年の年月が経過して絡まった蔦と落ち葉を払う。
「ノルンちゃん?」
「ん?どうかしたか?」
足を止めたノルンにアオイが気づき、アトラスも振り返る。ノルンはつるりとした美しい表面の上に掘られた紋様を見てアオイ達に視線で示した。
「…これって、何かのマーク?」
「…むむむむむ」
ノルンの元までやって来て首を傾げるアオイ。
そしてアオイの腕の中で小さな眉毛を釣り上げて目を凝らすポーラ。
「古代のハルジア王国のシンボルだな」
「…先程から道に沿うようにして石柱が建てられています」
「え?ほんとだ…気が付かなかった」
「これなに〜?」
「何だろうなぁ」
ポーラの問いには誰も答えられず、アトラスは首を傾げノルンもまた首を小さく横に振る。
そして再び一行は歩き始め、その石柱の意味が分かったのはその数分後のことだった。
突如道が途切れたかと思えば、崖となったその道の先に見えたのは恐ろしいほど巨大で荘厳な雰囲気を醸した石造りの建造物だった。
崖の上から見下ろすだけでもその大きさに思わず一同は目を丸くする。
「……………なるほど、な」
「………………」
一同はとりあえず下へと降りてみることにした。
そして降りた先で待ち受けていたのはやはりとてつもなく巨大で古めかしい建造物だった。
入口の前には龍を象るモニュメントが置かれており、入口のアーチを見るだけでもその大きさに思わず呆然としてしまう。
見上げるだけで首を反りそうになるほど、天井は高い。
ノルンは少し前に出会ったトレジャーハンターの兄弟を思い出した。
そしてそれはどうやらアトラスやアオイも同じだったようだ。
「…これって、もしかして…」
「…だろうなぁ」
「…はい。恐らく___」
「…もしかして…これが___迷宮…!?」
瞳を輝かせ身を乗り出すポーラの答えがどうやら正解だったようだ。




