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norn.  作者: 羽衣あかり
“星追い人と少女”
143/197

142.願い事

 エールがランタンに星の欠片を戻したあとはイチョウの古木の根元に腰を下ろしてエールの話を聞いた。


 空を見上げながら、時折少し興奮したようにノルン達の顔を見て身振り手振り星について語るエールは心から星が好きなようだった。


「僕が見つけることが出来た星の欠片はこれくらいだけど、中には両手に収まりきらないくらい大きな星の欠片が降ってくる事があるんだそうです」

「へぇ、エールは見たことあるのか?」

「いえ…僕も実は人づてに聞いただけなんで…。でも、この星の欠片を拾ってからはきっとあるんだろうなって信じてるいるんです」


 エールの足元に置かれた星の欠片が白く輝き暗がりの中、エールの顔を足元から照らした。

 その時のエールの瞳は暗がりの中でも分かるほど期待に満ちた輝きを秘めていた。


「それに星の欠片には面白い話も残ってるんですよ」

「面白い話?」

「はい」


 アオイが頭を傾げればエールは微笑みを浮かべて頷いた。


「星の欠片が空から降り注ぐとき、地面に衝突する前に人が受け止めた場合それは膨大な魔力(エーテル)を授かることが出来るんだそうです」

魔力(エーテル)?」

「はい。夢がありますよね」


 アオイとエールが話す傍らでノルンはエールの言葉に小さく目を見開いた。


(…星の欠片が空から降り注いで…人が受け止めた場合___)


 何故だかはわからない。

 けれどその言葉を聞いた時に何故だか胸が一際大きく鼓動を立てた。

 暗がりの中微かに揺れるノルンの瞳に誰も気づくことは無い。

 ノルンは一人感じた違和感に戸惑いつつも再び表情を綻ばせてアトラスやアオイと話すエールの横顔を見つめたのだった。


「あ!今星が光ったよ!」


 それはずっと空を見上げていたポーラの声から始まった。ノルンやアオイ、アトラスがエールと話している間ポーラはブランと草原を嬉しそうに駆け回り、疲れたら柔らかな草の上に寝そべって星空に包まれていた。


 そこで星空を見上げていたら星が一つ空を走ったのだという。

 ポーラの声を聞くとエールは顔を輝かランタンを手に立ち上がる。

 エールに続いてアオイとアトラスも立ち上がった。

 ノルンも同様に立ち上がろうとしたした際に目の前にすらりとした手が差し出された。

 ノルンは思わずその指先を辿って顔を上げる。

 そこには膝を曲げて優しくノルンに微笑むアオイが居た。

 ノルンは一瞬戸惑ったもののアオイの手に自身の手のひらを重ねた。

 ゆっくりと導かれ腰を上げ、アオイに礼を言う。

 アオイは微笑んで返事をしたあと再び空を見上げた。


「流れ星にはこんな言い伝えがあるんですよ」


 空を見上げたままエールがぽつりと零した。

 ノルンはその横顔を見つめる。


「流れ星を見たら3回心の中で願い事を言うんです。そうしたらその願いは叶うんだそうです」

「3回?それは無理だろ。一つ願い事をする間にももう流れ星は落ちてる」

「ふふ。そう思いますよね。でも、これは昔から言われている話なんですよ」


 呆れるように言うアトラスにエールは目を細めて笑う。そしてその願いごとは誰にも口にしてはならないのだそうだ。言ってしまったら願い事が叶うこともないという。そんな風にノルン達に言ったエールは空を眺めたままきらりと一層輝く光が落ちるのを見つめるとまるで星空を移したような瞳を煌めかせた。


「___あ、始まりますよ」


 その言葉が合図だった。

 エールがそう言った瞬間、一つ。二つ。三つ。

 そしてまた一つ。

 星が空を瞬く間に駆ける。

 果てしない星の海を泳ぐかのように幾つもの星が一斉に走り出して空を交差する。

 その余りの幻想的な風景に思わず一同は息を呑む。


「うわぁ…すごい」

「わあぁ、綺麗〜」


 感嘆の声を漏らすアオイとポーラの後ろでノルンはただひたすら瞬きをすることもせずその美しい光景を瞳に焼き付けていた。

 そこでふと先程のエールの言葉が蘇る。


(…流れ星をみたら…3度、願い事を言う__)


 ノルンも無茶だとは思う。

 視界にとらえた流れ星も一瞬の間にもう既に目の前を過ぎ去りどこかへ行ってしまう。

 それでもそんな話でも願うだけならば思わず縋ってみたくなってしまう。

 嘘ならばそれでもいいから。

 だから。願うだけなら___。


 そう思ったら気づけばノルンは一つの視界を走ろうとする流れ星を見つけるときゅ、と目を閉じた。

 手を胸の前で組む。

 そして気づけばノルンは脳内である人を思い描いて願い事を呟いていた。


(…どうか____________)


 ノルンは目を瞑り高速で3回願い事を繰り返す。

 そうして唱え終わって瞳をあけた時には既に自分が見た流れ星は勿論あるはずもなくどこまでも果てしなく美しい空が広がっていたのだった。

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