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norn.  作者: 羽衣あかり
“星追い人と少女”
142/198

141.星の欠片

 暗闇の中にぼわんと明るく当たりを照らす光をもった人物にアトラスが陽気に声をかければその人物は肩を震わせて驚愕の声を上げた。


「うわぁぁぁ!?だっ…だれ!?誰ですかっ!?」

「おっと、すまねぇ。驚かせたな」


 勢いよく飛び跳ねて振り返った人物はランタンをアトラスに突きつける。

 そこには余りの相手の驚きように猫目を丸くして目を見張るアトラスが居た。


「うわぁぁぁ!?ねっ…ねこ!?…た、立ってる.…ていうか喋った!?」


 年はノルン達と変わらぬ様に見える。

 1つか2つ年上と言ったところだろうか。

 赤茶髪の柔らかな髪に薄いコートを一枚羽織った優しげな表情の青年だった。

 半歩後ずさった青年の鼻から丸眼鏡が少しずり落ちた。

 そして目の前に立つアトラスと言えば久しぶりに受けた反応に少し不機嫌そうに眉をひそめた。


「なんか…久しぶりだなぁ、この反応」

「…なんかごめんね」

「…おう」


 テンションを下げて呟くアトラスにアオイは自分がアトラスと出会った時のことを思い出して思わずうっ、と詰まったあとで申し訳なさそうにアトラスを見た。


 そして青年は話し声によりアトラス以外にも人が居ることに気づいたようで暗がりの中ランタンを左右に動かす。

 そこで青年は二足歩行の猫と青年以外にも、小さなシロクマと少女を認識した。

 ずり落ちた丸眼鏡をぐいっと押し上げれば青年を闇夜の中で静かな輝きを放つ美しい瞳が捉えていた。

 青年は何かに囚われた様に動かずただ情けなく眉を下げて口を少し開けている。

 そんな青年にノルンは小さく頭を下げる。


「…初めまして。ノルンと申します。此方はアトラス。ウール族で共に旅をしています。…アルはとても優しいので心配なさらないでください」

「…ウール…族」

「おう!驚かせて悪かったな」


 ノルンの声を聞いて一瞬放心していた青年がはっとして改めてノルンの言葉を繰り返す。

 そしてずり落ちた丸眼鏡を押し上げてアトラスを見つめればアトラスは既に機嫌を直して闇夜にもかかわらず眩しく笑ったのだった。


「…そうですか。それはすみませんでした。随分失礼なことを…」

「いや!慣れてるからな!気にしなくていいぜ」

「…うぅ…ほんとにすみません。…僕はエールと言います。此処ではアトラスさんの言った通り天体観測をしていました」


 各々軽い自己紹介を済ませるとエールと名乗った青年は眼鏡を折りたたんでポケットにしまい微笑んだ。

 どうやらエールもこの場所が天体観測に最適だと聞いてやって来たらしい。


「今日は流星群ですから。ノルンさん達も同じですか?」

「はい」

「そうですか。ここは周りに山も障害物も何も無いですからきっと綺麗に見られます」


 柔らかく微笑んだエールは静かに視線を上にあげる。

 そんなエールにつられるようにしてノルン達も静かに視線を空へと向けた。

 するとそこには視界一面に果てしない星の海が広がっていた___。


「わぁ…」

「…すごい」


 その圧倒的な広大な世界にポーラとアオイが感嘆の声をもらす。

 ノルンもまたその瞳一面に美しく瞬く数多の光源を映すと息を呑んだ。


「…こりゃまたすげぇな」


 夜空に何千、何万、何億、何兆もの光源が光り輝く。

 闇夜の中、星が集まっている周辺が星の光に照らされ淡く光り青く見える。

 瞬きをすれば光源の量を調節するみたいに星の光が揺らめく。

 その光景は余りにも美しく、しばしノルン達は星に魅入られて言葉を発することはなかった。


「…本当に、綺麗ですよね。本当にこの星空を見る度に僕なんてちっぽけな存在なんだって言うことを思い知らされます」


 横から聞こえてきた声にノルンが視線を落としてエールを見つめればエールは星空を見上げたまま口角を上げて微笑んでいた。


「エールは一人でここまで来たのか?」


 アトラスがそう尋ねればエールは星から視線を離してアトラスを見ると頷いた。


「あ、はい」

「一人で旅してるんですか?」


 今度はアオイが尋ねればエールは笑いながら頷いた。


「はい。…笑われてしまうかもしれませんが僕は星を追っているです」


 そして恥ずかしそうにそう言った。


「星を追って…」

「はい」

「綺麗な星空を求めて旅をしてるんですか?」


 エールの言葉を繰り返したノルンに返事をするとアオイが不思議そうに首を傾げた。

 エールは緩く首を振る。


「それも勿論ですが、僕は星の欠片を求めて旅をしているんです」

「星の欠片?聞いた事ねぇなぁ」

「すごく綺麗なんですよ」


 そう言ったエールはそうだ、と言って自身が手にしていたランタンをノルン達の前に差し出した。

 不思議に思いつつランタンを見つめればそこから漏れ出す光の正体にノルン達は目を丸くする。


「これは…?」

「これが星の欠片なんです」


 アオイが首を傾げるとエールは微笑んでランタンからその中身を取り出して見せた。

 ランタンの中に入っていたのは蝋燭でも炎でもなかった。まるで金平糖の様に角の丸くなったトゲがせり出している不思議な物体だった。

 両の手のひらの上でころんとしたフォルムのそれは眩い光を放つ。

 エールはそれを星の欠片と呼んだ。

 眩しいほどに白く光るその欠片はとても神秘的だった。


「これが…星の欠片…。すごい。初めて見た」

「すげぇな。眩しいくらいだ」


 アオイとアトラスの言葉にエールは満足気に頷くと大切に星の欠片をランタンへとし舞い込んだ。

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