13.ウールの秘密
アトラスが大陸にやって来たのはつい数年ほど前のこと。大陸にやって来たアトラスはギルドで日銭を稼ぎながら、気ままに旅をしていた。
しかしある日一人の女性騎士と出会い、声をかけられた。銃の見事な腕前に女性騎士は一目でアトラスを気に入り、国家騎士団にスカウトした。
___よーう。お前いい腕だな。
___あ?誰だお前。
___ふふ。お前、イーグルに入る気は無いか?
「よくわからねぇまま俺も承諾しちまった」
その女性騎士はイーグルの中でかなりの地位を持っていた。
アトラスを直轄のイーグルの第一部隊に配属した。アトラスはその後すぐに持ち前の勘の良さと戦闘力で武功をあげる。
そして副隊長の地位に付けられる事になった。
「けど、大変なのはその後からだった。こんなチビで新入りにでかい顔されていい気持ちの奴はいねぇだろ?」
「………」
アトラスが指揮をしても、従う者は少なかった。
___おい、お前は今日張り込みのはずだろ?なんでここにいる?
___チッ。…すみません、昨日からかなり腹を壊してまして…。
___そうか。ならこれからはなるべく早く教えてくれ。今から代わりの者を送る。
___それなら必要ないと思いますよ。どうせあそこに犯人は現れないんで。
___違ぇねぇ!はっはっは!
「そんなんばっかりだ」
アトラスが自嘲気味に笑う。
「ま。勿論全員が全員そうってわけじゃない。気のいいヤツらも沢山いる。お前のとこのアランなんかはよく怒ってくれたぜ」
___アトラス!何故部下は君にあんな態度をとっている?
___いいんだ。俺がチビなウールだからだろ。
___言いわけがないだろう!君は正真正銘努力してその腕を身につけ今の副隊長という座にいる!それなのに…!
アトラスはアランの言葉を思い出して俯きながら悲しそうに微笑んだ。
「ま。そんな訳で俺も窮屈になっちまってな!ちょっと今は気ままに旅をしてるって訳だ」
アトラスはノルンに気を使わせないようにか、二カッといつもの顔で笑う。
「…そうでしたか」
ノルンはアトラスの横顔を見つめて静かに頷いた。
そして一呼吸おいて、その小さな口を開いた。
「それでも、私達の為に戦ってくれていたのですね」
ノルンの言葉にアトラスの口から思わず「え…?」という声が漏れる。ノルンはアトラスの声に気づかなかったのかそのまま続ける。
「その様に心ない待遇を受けても、貴方はイーグルとして国のために、私たちの為に戦ってくれていたのですね」
「…っ…」
アトラスの黄金の綺麗な瞳が揺れた。
しかし前を向いて歩いているノルンはそれに気づかない。
「私はこの旅が始まってからもずっとアトラスに助けられていますが。ありがとうございます。アトラス」
そう言うとノルンは足を止めて横にいるアトラスに顔を向けた。
それは、とても。とても優しい瞳で。
普段あまり動くことの無い口角を緩く上げて。
それは本当に、本当に綺麗で。全てを肯定する様な眼差しと微笑みで。息が止まった。目の奥がツンとした。思わず口を噤む。そうしていないと何かがこぼれ落ちてしまいそうで。
「どうかしましたか?アトラス」
しかし一瞬の後、すぐにノルンは真顔に戻って目を見張っているアトラスに声をかけた。アトラスはハッとすると、帽子を目深に被った。そして…
「いいや。なんでもない」
未だ震える手と口をノルンに悟られないように俯いてそう言うのだった。
ノルンは何も聞き返さなかった。
わかりにくい優しさ全てが暖かかった。
アトラスは人知れず、ずず…と小さくノルンに聞こえないように鼻を啜った。




