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norn.  作者: 羽衣あかり
“白狼と少女”
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12.ウルガルフを求めて

 その後ノルンとアトラスは村の小さな宿屋に泊まった。ウルガルフ探しは翌日に決めたのだ。

 夜は夜にしか現れない魔物もおり、中には活動が活発になるものもいる。また暗闇の中足場の悪い雪山を行くことは大変危険を伴う。

 今から村を出るとなると、ウルガルフの元に辿り着くのは真夜中となるだろう。そのため、二人は話し合い、ウルガルフを探しに行くのを翌日に決めたのだった。

 部屋は暖炉とベッドが二つあるだけの簡素な部屋だが、布団はたっぷりと用意されていた。

 夜、暖かく部屋を照らす暖炉にあたりながらノルンはウルガルフのことを考えていた。


 アトラスはベッドに腰掛けノルンの様子を伺いながら話しかけた。


「にしても人を襲わねぇウルガルフなんて珍しいな。単独で村に訪れたことも」

「…はい。ウルガルフは狩りの名手です。魔物でさえも怯むことなく立ち向かい、人など脅威にすらなりません」

「あぁ。あのばあさんの言う通り本当にそのリボンだけを求めてやってきていたのかもな」


 アトラスはノルンの手元に目を向けて言う。

 ノルンは青黒く汚れたリボンを部屋に入ってからずっと手にし、見つめていた。


「ま、どちらにせよ。それは返してやりてぇな。そのウルガルフがノルンの探してるやつじゃなかったとしても」

「はい」


 アトラスの言葉にノルンはしっかりと頷いたのだった。





 ◇◇◇





 翌朝ノルンとアトラスは村の後方のキリア山に向かっていた。村を抜けると徐々に雪が深くなる。葉を落とし、枝だけの木々は寒々しく霜をつけている。


 まだ朝方ということもあり、寒さが際立つ。

 ノルンの吐息が白く、世界に溶け込む。

 二人の息遣いと足音だけが響き、それ以外は静寂そのものだった。


「確かばあさんが言ってた洞窟は山の中腹当たりだったよな」

「はい。大きな杉の木の近くにあると」


 山には村人も入ることが多いのだろう。

 目印に旗が一定の間隔を置いて、高く靡いている。

 旗を目印に進み、6つ目の旗の所を小道にそれて行くと洞窟に着くとロベルは丁寧に教えてくれた。

 そして歩き続けた二人は6つ目の旗の前に来ていた。


「ここまできたら小道に入るって言ってたな」

「これでしょうか」

「多分そうだ。雪で分かりにくいが道がある」


 アトラスに続いて狭い小道を歩く。少し足を外してしまえばそのまま転落してしまいそうな小道だ。

 気を張りつめ歩き続けること15分程。


「お!ノルン!」


 アトラスの声に足元から顔を上げれば木々に隠れるようにして確かに洞窟が見つかったのだった。


 洞窟の入口は2mほどの高さがあるだろうか。

 中は暗くその全容は掴めない。


「行きましょう」

「おう!」


 ノルンは洞窟を見て頷くと杖の先端の水晶に光を灯し、進んで行った。

 洞窟は途中いくつもの道に分岐していた。

 そして勿論のこと魔物が多く棲息していた。

 アトラスのハンドカンの音が洞窟内に反響して響く。ノルンも物理攻撃魔法を繰り出す。


「キリがねぇ!」

「このまま戦闘しつつ奥へ向かいましょう。ここは狭すぎます」

「あぁ!わかった!」


 魔物を倒しながら二人は洞窟の奥へ奥へと向かう。

 戦闘音を聞いて洞窟中の魔物が集まってきているのだ。


「ノルン!洞窟の壁にあてるなよ!崩れてきたらこいつらもお陀仏だが俺達もお陀仏だからな」

「了解しました」


 途中戦闘中にも関わらず、ノルンが貴重なヨルハナの植物を見つけ、採取しようとした時はアトラスも焦っていた。


「お…おいおい!ノルン!何してんだ!!」

「アトラスすみません。少し待ってください。ヨルハナというとても貴重な植物を見つけました」

「な…!?馬鹿!戦闘中だろうが!帰り道にいくらでも寄ってやるから今は戦え!」


 そんなこんなで洞窟のほぼ全てと言って良いほど魔物を倒し終えた二人は少し開けた場所にたどり着いた。


「ふぅ…。さすがに朝から重労働だぜ」

「アトラス、怪我はありませんか?」

「ははっ!舐めんなよ?これでも一応イーグル一番隊副隊長だからな!」


2人の間にしばしの沈黙が流れる。


「…副…隊長」

「あ…」


 ついそう返してしまったが、気づいた時にはもう遅く。アトラスの言葉をノルンは復唱していた。

 その瞬間アトラスもピシリと動きを停止させたあと、やってしまった、と言うような顔をした。

 真っ直ぐアトラスを見つめるノルンにアトラスははぁ、とため息を着いてペタンと二つの耳を項垂れさせた。

 イーグルとは国家騎士団の愛称である。

 国家騎士団の象徴(シンボル)(イーグル)であるためそう呼ばれている。


(イーグル)に属しているとは思っていましたが、副隊長だったのですか」


 少し驚いた様子だったものの、ノルンはすぐにいつもの平静を取り戻していた。

 ノルンの言葉にアトラスが驚いたようにノルンを見た。


「俺が(イーグル)だってことはわかってたのか」


 ノルンは真顔でコクリと頷く。


「はい。アランと顔見知りということは(イーグル)なのではないかと」

「なるほどな。でもそれだけじゃ分からねぇだろ?」

「はい。しかしアトラスのハンドガンのホルダーに鷹が描かれていますので」


 アトラスはまた少し驚いたように目を見開くとその後ヘラッと笑った。


「なんだ。そんな最初からバレてたのかぁ」


 はい、とノルンは頷く。

 しかしそれ以上は何も聞かなかった。

 また普通に洞窟内を歩き出す。

 そんなノルンにアトラスは不思議そうに聞いた。


「…なぁ…なんで隠してたのか聞かないのか?」


 アトラスの横を歩くノルンは一度アトラスに視線を向けたが、また前を向いてなんてことのないように答えた。


「はい。アトラスが話してくれるのなら聞きます。アトラスが何も言わないのなら聞きません」

「!」


 その言葉にアトラスは息を呑んだ。

 淡い光に照らされるノルンの横顔を見る。

 人によっては冷たく聞こえるかもしれないその言葉はノルンの気遣いだとアトラスはすぐに分かった。

 何か事情があることを察してノルンからは聞かないでいてくれるのだろう。


 アトラスは下を向くと眉を下げて、切なそうに、それでいて嬉しそうに口元を緩めていた。

 そして二へっと少し気の抜けた笑みをノルンに向けた。


 そしてあのな、と口を開くのだった。




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