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norn.  作者: 羽衣あかり
“粘土人形と少女”
111/200

110.島観光

 ポーラがアトラス、アオイ、そしてノルンの肩口から顔を出すブランを母親に紹介した。

 ポーラの母親は一人一人に丁寧に頭を下げて礼の言葉を口にした。


「本当にこの度は息子を連れ帰ってくださり、ありがとうございました」

「いえいえ。僕達もポーラと旅ができて楽しかったです」


 ポーラの母親は涙ぐみながら何度も礼を述べてポーラを見つめて嬉しそうに頭を撫でた。


「良かったな。ポーラ」

「…うん。ノルン、アトラス、アオイ。ブラン。あの…本当にありがとう」


 アトラスが明るく笑って言えばポーラはもじもじとしながら礼を述べた。


「…いえ。こちらこそポーラと過ごすことが出来て良かったです」


 ノルンはいつもの様にしゃがんでポーラと視線を合わせてからそういった。


「…うん」


 ノルンの言葉に頷くポーラはまろ眉を下げて寂しそうに目を潤ませた。


「…皆さんはこの後どうされるのでしょうか?」


 ポーラの母親の問いにノルンはゆっくりと折り曲げていた足を伸ばしながら言う。


「…せっかくコラル島まで来たので少し観光をしてからまた旅に戻ろうと思います」

「そうでしたか。でしたら少しは滞在なされるのですね」


 ポーラの母親が頷きそう言うと、ノルンはアトラスとアオイに確認するように少し振り返った。


「まぁそうだな。俺も周りたいところもあるし…ノルンがしばらくは滞在したそうだしなぁ」

「…………」

「ふふ。うん。そうみたいだね」


 アトラスの言葉にノルンは少しだけ視線を逸らす。

 図星もいい所だった。

 既にここに来るまでの道中で見たことの無い植物を何種類見つけたことか。

 そしてその度にノルンはそちらをじっと見ては立ち止まっていた。


「そうでしたか。それではごゆっくり身体を休めていかれてください。…それと」


 ポーラの母親の視線がポーラ向けられる。


「良ければその間ポーラもご一緒させては頂けませんか?」

「…おかあさん?」


 ポーラの母親の言葉にアトラスは首を傾げる。


「もちろんそれはいいが…」


 ポーラもまた母親の言葉の意図を掴めていないようで不思議そうに首を傾げながら母親を見つめていた。

 ポーラの母親はそんな息子を見て優しく微笑んでまた頭を撫でた。


「ポーラ。皆さんにちゃんと村を案内するのですよ。それと、長老様に挨拶に行くことも忘れずにね」


 ポーラの母親がそう言うとポーラは下に向いていた耳をぴくと立てた。丸い瞳は嬉しそうに輝く。


「うん…!」


 母親は満足そうに微笑む。

 そしてノルンたちに向き直った。


「それではあと少しの間この子のことをよろしくお願いします」

「はい。分かりました」

「おう!んじゃあ行くか!」

「はい」


 母親が頭を下げればノルン達は優しげな眼差しで頷きポーラを迎え入れた。

 そしてポーラもまた嬉しそうにノルンに駆け寄りその輪の中に入っていく。

 そんな息子を母親は優しげな、どこか切なげな眼差しで見送った。


「ん〜どこから行くかなぁ〜」


 ポーラの家を離れ、先程の村の中心へと向かいつつアトラスが呟く。

 するとアオイが楽しそうにとてとてと足元を歩くポーラを見た。


「そういえばポーラ。さっきポーラのお母さんに言われてた長老様って前にポーラが言ってた人のこと?」

「うん、そうだよ〜!」


 アオイが長老様と口にするとポーラは分かりやすく顔を明るくさせる。


「フクロウだけどな。よし、じゃあまずはホーラスの爺さんのとこだな」


 ホーラスというのはここコラル島を納める長老の名前だった。種族はフクロウで島の奥にひっそりと住んでいるらしい。

 とても長寿で物知りなホーラスはいつもポーラを兄弟達から匿い、その後でたくさんのお話を聞かせてくれたのだという。


「…ホーラス様という方はどのくらいのお歳なのですか?」

「だからフクロウだけどな。ん〜まぁそうだなぁ。俺も詳しいことは分からねぇけど軽く百年は生きてるんじゃないか?」

「え!百年…!?」


 あっけらかんと答えたアトラスにアオイが目を丸くする。ノルンもまた少し驚いているようだった。


「長老様のお家にはね、たくさんのご本があるんだ。いつも楽しいお話を聞かせてくれるんだ〜」


 ポーラの話に頷きならノルンはふと首元にかけられているリングに触れた。

 今は亡き母親の遺品だ。

 それだけ長生きをしている人ならもしかしたら、と少し淡い期待を抱いてしまう。

 ___父を知っているかもしれない、と。


「お、見えてきたな」

「長老様のお家だ〜」


 ホーラスに会ったら尋ねてみよう。

 そう心に決めてノルンは二人の声に顔を上げて目の前の建造物を見る。

 ホーラスの家は長老と言うだけあってこの島で見たどの家より立派で大きかった。

 しかし立派といえど着飾って誇張されている様子はなく、大きな大樹と一体化しているその家は自然とよく溶け込んでいた。

 森の中に静かに佇むその家にアトラスとポーラは慣れたように近づくと家の中に遠慮することもせず入っていく。


「おーい、ホーラスの爺さんー。入るぞ〜」

「長老様〜」


 長老様と聞いていたのにこの様に勝手に家に入ってしまっていいのだろうか。長老と親しいと思われるアトラスとポーラの様に不躾に続くこともできず、ノルンは玄関の前で足を止める。

 そしてノルンが思っていたことをどうやらアオイも感じていたようで家の前に立ち止まった二人は顔を見合わせる。


「う〜ん…入っていいのかなぁ」

「…わかりません」


 しかしその後すぐに戸惑う二人を他所にアトラスが家の中から「おーい、何してんだ入ってこいよ〜」と呼びかけたことで、アオイの背中に続いてノルンもまた長老の家に足を踏み入れたのだった。

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