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norn.  作者: 羽衣あかり
“粘土人形と少女”
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99.神殿探索

 ノルンが名を名乗るとゴーレムははて、という風に軽く首を傾げた。


「人違イ…。ノルン…?フレイヤ様デハナイ…?」

「はい」

「イエ…デモ貴方ノソノ瞳ハ…」


 ぶつぶつと何かを呟きながらゴーレムはノルンの瞳をじっと凝視する。

 そして自分の中で状況を整理して納得したのか「アア…」と何処か寂しそうに零すと


「…ノルン。貴方モ星ノ加護ヲ受ケシ者ナノデスネ」


 と独り言のように呟いた。


(…星の加護?)


 ノルンは目の前のゴーレムの言葉の意味がわからず小さく首を傾げる。


「…イエ。申シ訳アリマセン。…ソウデシタネ。モウフレイヤ様ハ…」


 ゴーレムは寂しげに呟き続ける。

 その姿が余りにも切なげでノルンとアトラスは何も言えず顔を見合せた。


「なぁ…さっきからお前が言ってるフレイヤって…もしかして伝説の魔法使いフレイヤのことか?」


 ゴーレムが俯く中、アトラスがゴーレムに気を使うように顔を伺いながら聞く。

 そこでゴーレムはゆっくりと顔をあげてアトラスを見た。


「伝説…。…ソウデスカ。フレイヤ様ハ伝説トシテ伝エラレテイルノデスネ」


 アトラスはゴーレムの言葉に眉を寄せる。

 先程からまるでこのゴーレムはフレイヤと面識があるかのような話し方をする。

 普通に考えれば有り得ないような話だ。

 伝説上の英雄としてこの大陸に伝わる大魔法使いフレイヤはもう1000年も前の時代を生きたとされている人物なのだから。

 けれど、目の前のゴーレムは戸惑うノルンとアトラスに気づくこともなく、ゆっくりと頷いて見せた。


「イエ。失礼致シマシタ。ハイ。私ハフレイヤ様ニ造ラレ、オ仕エシタ粘土人形(ゴーレム)デゴザイマス」

「…おいおい、嘘だろ…」


 ゴーレムの言葉にノルンとアトラスは信じられないという面持ちでゴーレムを眺める。

 信じられない。

 にわかには信じがたい話だ。

 けれど、このゴーレムが嘘をつく理由は見当たらないし、何より初めて口を開いた時の態度がゴーレムの話は真実だと物語っている。


 そして、このゴーレムが何故再び起動したのか理由は分からないが、長きに渡りこの地で眠っていたのであれば何も可能性は無い話ではない。

 ただ余りにも壮大で長きに渡る話にノルンとアトラスがついていけていないのだ。


 未だ戸惑いを見せるノルンとアトラス。

 ゴーレムはそんな二人に構うことはなく、ただただじっとノルンを見つめていた。


「…すみません。もし貴方のお話が本当ならば貴方はここで何をしていたのか。聞いてもよろしいですか?」


 ノルンがゴーレムを見つめて口を開く。

 ゴーレムは記憶を辿るように少しの間を開けて答えた。


「私ハフレイヤ様ノ命ニヨリ此処デアル植物ヲ栽培シテイマシタ」

「植物…」

「ハイ。…アア。マダ残ッテイタノデスネ」


 ゴーレムはノルンの後ろに視線をずらして懐かしさと寂しさを交えたような声で言った。

 ノルンは驚いたようにゴーレムを見つめる。

 恐らくゴーレムのいう植物とは。


「…もしかして星蒼花のことでしょうか?」


 数少ないパーツしかないゴーレムの顔が和らいだように感じた。


「…ゴ存知デシタカ。ソノ通リデス」


 ゴーレムはゆっくりと星蒼花に近づくとその場に膝まづいて愛しそうに、壊れ物を扱うかのように触れたか触れないかの距離で花に手をかざした。


「じゃあこの花はお前が育てたのか?」


 アトラスが目を丸くして聞く。


「ハイ。フレイヤ様ノ命ニヨリ私ガコノ地デ星蒼花ト呼バレル植物ノ研究ヲ行ッテオリマシタ。ヨケレバゴ案内シマショウ。マダ残ッテイルカモシレマセン」


 ゴーレムは立ち上がり、ノルンとアトラスを見やったあと、神殿の奥へと進んでいく。

 何処に行くのだろうか。

 その先には何があるのだろうか。

 ノルンとアトラスは顔を見合せると、頷いてゴーレムの後に続く。

 神殿はとても広かった。

 橋の上を渡り別の塔へ移動する。

 太古の昔にはこの下には水路が通っており、美しい水が流れていたという。

 ピチチと可愛らしい小鳥が飛んできてはゴーレムの肩に乗る。


「ココハ私ノ研究室デシタ」


 そういって通った部屋は他の場所に比べて最近まで使われていた形跡が残っていた。

 最近と言っても本当につい最近という訳では無い。

 このゴーレムの話が正しいのであればここは1000年前の建物。

 あくまで1000年前の神殿の他の部屋と比べれば、という話だ。

 その部屋には本が積み重ねられ、壁にはびっしりと何かが貼られていた形跡がある。

 床にちらばったガラス片にノートと思われるものや、羽根ペン。


 ゴーレムはその中の1冊の古びてボロボロになった開くことすら難しいノートを手に取った。


「…………」


 ゴーレムは何も言わない。

 ただじっとそれを見つめていた。

 そして、丁寧にそれを机の上に置き直すと再び足を進めたのだった。


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