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norn.  作者: 羽衣あかり
“白狼と少女”
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9.旅路

 フォーリオの街を出発してから4日目。

 途中小さな村に立ち寄り、宿屋で身体を休めながら二人はキオンの村まで半分ほどの所まで来ていた。

 そんな現在、二人はけたたましい戦闘音を響かせていた。

 森にハンドガンの発砲音が二発響き渡る。


「またかよ。ったく」

物理攻撃魔法(ヴァーミリオス)


 アトラスがハンドガンを響かせると共に、ノルンも手に長い魔法の杖を握り戦闘態勢に入っている。

 杖は木材に金属で装飾がなされており、先端には美しい水晶が取り付けられている。

 ノルンが呪文を唱えると魔法の杖から凄まじい閃光が放たれ、魔物の胸を撃ち抜いた。

 魔物は動きを停止し、その場に崩れ落ちる。

 既にノルンとアトラスの周りには5体ほどのゴブリンが倒れていた。


「…ふぅ。やっと終わったか」

「はい」


 アトラスは軽く息をつくと両の手のハンドガンをくるくると回したあと、腰のホルダーにカチャリとしまう。

 ノルンも軽く杖に魔力を込めると杖は淡く光ったあと、跡形もなく消えてしまった。

 実際には消えたのではなく、ノルンの片腕に着いているシルバーの植物の模様が施された美しいブレスレットが杖そのものなのであるが。


「こいつらの内蔵もってくか?」

「いえ。ゴブリンの内蔵はあまり高くありませんから」

「それもそうだな」


 魔物の中には貴重な素材となるものが多く存在する。

 アトラスが言ったように臓器や、その他にも毛皮、羽、中には目玉など。様々である。

 しかしゴブリンはハルジア全土に生息しており、希少な魔物でもなく、またそれほど価値のある部位もない。


「それにしても…どういうことだ?」

「…どうかしましたか」


 倒れるゴブリンたちを見てアトラスが眉を寄せる。

 ノルンが聞き返すとアトラスがノルンに向き直った。


「…いや。以前もここを通ったことがあるが、この森はこんなに魔物が多く生息していなかった。それに今まで通ってきた場所どこも魔物が増えたような気がする」

「…そうなのですか」


 確かに言われてみればそうかもしれない。

 ノルンも短い道のりとはいえ、幾度もフローリアの遣いで旅をすることはあった。

 しかし思い返してみればここ最近、道中で魔物との遭遇率が高くなった気がする。

 どこかの街へ赴くたびに視察していたギルドでも魔物討伐の依頼が増えていたように思う。


「言われてみればそうかもしれません。何故なのでしょうか」

「…それはわからねぇな。ま、とにかく今はキオンに向かおう」


 結局アトラスも思い当たることも無く、二人はキオンへの旅を再開させた。




 ◇◇◇





 その夜。二人は森の中の少し開けた場所で野宿をした。闇におおわれた森の中、ノルンの掲げるランタンの明かりだけがほのかに灯る。


「…段々冷えてきたなぁ」


 ふさふさの毛並をぶるりと竦めてアトラスが身震いする。

 ノルンが薪に火をつけるとアトラスはすぐに寄ってきて手をかざしていた。アトラスはその温かさに頬を緩める。


「今夜は暖かくして眠りましょう」

「あぁ。これからキオンに近づくにつれてもっと冷えるからな。あそこはまだ雪山だ」


 アトラスが視線を森の先に向けて言うが、暗い闇の中では山も闇に紛れて存在を消している。


 ノルンはアトラスの言葉に頷きながら鍋をかき混ぜる。今日はサーモンとカボチャのクリームシチューだ。

 ごろごろと鍋の中に入った入った野菜をとろとろと煮込む。

 そんなノルンの横でアトラスはじっとノルンを見つめていた。


「…なぁ。ノルン」


 少し小さな声でアトラスはノルンに声をかけた。

 どうしましたか、ノルンが鍋から視線を外してアトラスを見る。

 アトラスはノルンと視線が交わると少し遠慮がちに言葉を零した。


「…聞いていいか?…何でウルガルフを探しているんだ?」


 ノルンが小さく息を吸った。

 ほんの少し目が見開かれ、暖かな昼間は太陽に反射して光るティールも今は闇夜の中でほの暗く輝く。


「…まだ少ししか一緒に旅をしていないが、ノルンが強い魔法使いだということはわかった。ノルンの実力ならウルガルフも討伐できるだろう」

「……」


 ぱちぱちと焚き火が音を立てる横でノルンは静かにアトラスの言葉を聞く。


「だがもしかしたら、ノルンは本当はウルガルフを討伐することが目的じゃないんじゃないか?」


 金色の瞳とノルンの視線が交わる。


「…どうして、そう思うのですか?」


 ノルンがそう言うと真剣だった表情からふっ、とアトラスが力を抜いた。


「なんとなくだ」


 アトラスが眉を下げて柔らかく笑う。

 その後アトラスは「言い難い事だったら無理に言わなくていいからな」と付け加えてまた笑った。


 アトラスの優しい気遣いにノルンは少し胸がきゅ、と締め付けられるような気がした。

 一度焚き火に視線を戻すと、そこには既に野菜の角が溶けてとろとろになったシチューがあった。

 ノルンはシチューを器によそうとアトラスにどうぞ、と言って手渡す。

 礼を言うアトラスに頷くと同時に、ノルンは旅立つ前に見た夢を脳裏に思い出していた。


 ___幼い頃から幾度となく、見続けるあの夢を。


「今日もうまそうだなぁ」


 アトラスは暖かいシチューの器を覗き込んで嬉しそうに頬を緩める。

 ノルンも自身のシチューを木の器によそう。

 そして少しの間器を持ったまま動きを止めた。

 美しい宝石目は手元のシチューに落とされているが、その瞳はシチューを映していない。

 少しの後ノルンは一度目を閉じると、そっと瞼を持ち上げて形の良い唇を小さく開いた。

 その瞳には迷いはもう見られなかった。



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