セイラ
「あれ、ここは…?」
ピコピコと騒がしい電子音で目を覚まし、ゆっくりと目を開ける。
起き上がってみるが頭の痛みも感じない。
良かった、助かったんだ!楽観的に考えていると、
自分の状態も把握できるようになってきた。僕が寝ていたのは真っ白な
だだっ広い空間の...床!!
え、どういうこと?僕一様病人なんだけど...こういう時って
普通ベットに寝かされるんじゃ無いの?
っていうかここどこ?病院にこんな空間があって覚えが無い。
困惑しつつ周囲を見渡してみると、テレビで見た巨大な
コンピューターサーバーの様なものが目に飛び込んできた。
電子音の出どころはこれのようだ。それにしても大きい。
高さ10mくらいはあるような...
床に寝かされている奇妙な状況、見覚えの無い部屋、
病院に存在するわけない超巨大なサーバー...
みたいな物体。畳みかけてくる非日常な状況に、1割のワクワクと
9割の恐怖が僕を支配し始める。
ナースコールは見つからないので、叫んでみる事にした。
「あの、誰かいませんか?看護師さーん?」
返事は無く、恐怖で震えた声が、虚しく空間に反響するだけだった。
不安が一層強まり、自然と涙が溢れてきそうになる。
どうにか堪えようとしたそのときだった。
「あ、あの…お目覚めになりましたか?」
女性の声が聞こえてきた。誰だ?どこにいるの?そんな事を考える余裕は無い。
僕は必死にその声に応える。
「今起きた所です!看護師さんですか?医師の方d…」
「本当にすみませんでしたぁぁぁぁ!!!!」
僕の言葉を遮って耳を塞ぎたくなるような絶叫が部屋にこだまし、
思わず顔をしかめる。
え、何?なんで謝られてるの?何かした?戸惑う僕をよそに声の主は言葉を続ける。
「あ!失礼しました!姿も見せずに謝罪とは重ね重ねご無礼を!
すぐそちらに向かいます!」
そう言い終わるが早いか次の瞬間、眩い光が部屋を包み、思わず目をつぶる。
ゆっくり目を開けると、女性が目の前に立っていた。身長は僕より大きく、
髪はツヤのあるプラチナブロンド。一瞬で見惚れてしまうほど美しく、
神々しさすら感じる。女性は僕の顔をジッと見てからゆっくりと口を開いた。
「五十嵐汐音さん…ですね?」
「あ、はい!そうです!」
声もキレイだ!艶っぽくて、それでいて可愛い!
あれ、こんなキレイな人、病院に居たかな?ふと疑問が頭に浮かんだ瞬間だった。
「この度は、貴方を殺してしまい、申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」
再びの絶叫と謝罪。女性は、戸惑う僕をよそに床に手を付き、
額も床に付くほど伏せて…「土下座」の姿勢になった。
病院にいた10年間、目の前で土下座された経験なんてあるわけない。
唖然としつつその見事な土下座を見つめていたが、ハッと我に返った僕は慌てて
駆け寄り、女性を立たせる。
「ちょ、ちょっと!何してるんですか!頭上げてください!」
「いえ!これでもまだ足りないくらいです!何なら腹でも切って…」
「そんなことしないで!トラウマになりますから!
あと、殺したってどういう事ですか!?僕見ての通り生きてますけど!?」
そうだ。確かに気絶したけど、こうやって目も覚めたし生きているじゃないか!
反論のつもりで叫ぶが、女性の表情がどんどん曇っていく。
あれ...嫌な予感がしてきたぞ...?
「…そうですよね!まずは説明をしないと…五十嵐汐音さん。貴方は先ほどの
転倒事故による頭部の負傷が原因で、その…亡くなりました。」
「……は?」
亡くなりました。その単語だけがゆっくりと聞こえた。
頭が真っ白になる。
じゃあ僕が居るここはどこ?目の前の女性は何者?これは夢?
様々な疑問がグルグルと頭の中を巡っては消えていく。
「ここは簡単に言えば天界。数多くの神が住んでいる世界です。
私は人間の運命を決める女神の1人、セイラと申します。
気軽にセイラとお呼びください。」
女神?天界?情報量が多くて付いていけない。ドッキリでしょ!
と言いたいところだが、病院が患者にそんな不謹慎なドッキリをするとは思えない。
ってことは、僕は本当に死んだのか…?
顔から血の気が引いていくのが分かる。口をパクパクと動かすがショックから
声が出ない。しばらく呆然としていると、目の前の女神、セイラが気まずそうに口を開く。
「驚くのも無理はありませんよね…、貴方はこの後病気を治して、
その後は普通の人生を歩むはずだったんです。……私の確認ミスが無ければ……。
私は、ここにある機械で人の運命を定めたり、書き換えたりしています。
それでついうっかり…ホントは別の方の人生を変えるはずだったのですが、
私、徹夜明けで...一文字違いの貴方に足を滑らせて死亡、
という運命を付与してしまい…こうして直々に謝罪にはせ参じて...」
目の前でセイラが何か説明してくれているが全く耳に入ってこない。
僕は死んだ|。
その事実を頭で処理するので精一杯だった
から。唯一理解できたのは、目の前の女神のうっかりミスで僕の人生が
終了したこと。
絞り出すように声を出す。
「僕の人生はなんだったんですか?病気のせいで友達を作ったり、
遊んだりもできずに...ずっと羨ましくて...やっと、
その病気を治して病院から出れると思ったのに、あなたのミスで!
僕は!この人殺し!!」
セイラに怒りをぶちまける。絞り出すような声は徐々に怒鳴り声に代わっていく。
こんな事しても意味が無いことは頭では分かっているが、
うっかりミスで死んだ人の気持ちにもなってほしい。この女神のせいで、
僕は希望から絶望まで一気に叩き落されたのだ。例え悪気が無くとも、
コイツが僕を殺したのだ。
そう思えば、叫ばずにはいられなかった。
その叫びをセイラはただ、じっと聞いている。
そして、どれだけ声を荒らげても息苦しくならないことが、逆に死の実感を
鮮明にさせた。普段の僕なら、今頃呼吸困難になっているだろうから。
怒りをぶちまけてやや冷静になった僕に、セイラが口を開く。
「...おっしゃる通りです。私は貴方を殺したも同然。
どんな罰も受ける所存です。
ただ、その前に...1つ提案がありまして...お聞きして頂けませんか?」
「はぁ...良いですよ。どうせ死んだので時間はいっぱいありますし...。
どんな提案ですか?僕が死んだことを無かったことにするとか?」
2度目の土下座、とはいかないが頭を下げたまま、セイラは言葉を続ける。
どうせ死んだのだ。提案を聞いてみよう。若干の諦めも混じっているが、
とりあえず話を聞いてみる。再びセイラが口を開いた。
「そ、それは出来ないです!生き返らすことは出来ないんです!
神にも決まりやルールがたくさんあって...死者を生き返らせたら何て言われるか...、
あぁぁぁ...!また上司に怒鳴られる!」
...どうやら神の世界にも色々あるらしい。先ほどセイラを怒鳴ったことが
少し申し訳なくなった。
セイラもセイラで苦労してるみたいだ...、話の続きを待つ僕にセイラは
何事も無かったように言葉を続ける。
「...失礼しました。それでえっと、五十嵐汐音さん!私、運命の女神セイラが
償いとして、
貴方に第二の人生をご用意しています!」
ようやく書き終わったぁぁぁ!4か月も投稿開いて申し訳ありません!
文章力が欲しいです...楽しめる方はぜひ!今回も楽しんでって下さい!




