起きたら、
多分、駄文
布越しに刺さる青草の痛みで緩やかに起きた。
瞼を開ける前の刹那に、何故か妙に清々しいのが鼻を抜けた気がした。
少しひっついたような重々しい瞼が開くと
日が出る前の、星がまだ残る朝空が一面に広がっていた。
「?、ん?」
見たことない景色に驚いて出した声で、また驚いた。
女の声がした。若い透き通った声色だった。
「え、え?」
2回目の声をあげて、その声が自分のだと分かって またまた驚いた。
もしやと思って体も見ると、着た覚えのない、みすぼらしい薄茶色の布が胸のあたりで少し張り上がっていた。
視界の端には、濃い茶色の髪が垂れて見えていた。肩ほどまであるだろうか、触って引っ張ったら痛かった
まるでフィクションのような出来事
何も分からず不確かだと、次第に時間すらもあやふやな感じがしてくるが自分は思ってるより落ち着いていた。それは、起きた時からぼんやりと夢のような気がして、現実じみた感じがしていなかったからだろう。
というより、夢だということ以外を信じるほど 子供じみた脳はしていなかった
立ち上がってため息を空に一つ吐いたら、重力のまま思い切り草上に倒れた。
なんとなく、夢の中なら雲のようにふわふわと落ちてゆくのだろうと偏見していたが、実際は背中が草原についた時、どしん、と思ったよりリアルな内臓に響く衝撃が来た。少し痛い?
草は相変わらずチクチクする。
こういう細かいところを無意識でも描いているのは、
我ながら天晴だと感心した。
寝転んで草上を横にバタバタ転がっていると、夢の中では自分の出したいものが自在に出せるらしい、なんて話をふと思い出した。
これを思い出した時、自分はあの異世界転生の定番を真っ先に思い付いた。
強く念じて 一応、口に出してみる。
「す、ステータス オープン」
想像通りの近未来的な音と共に、半透明な薄青い板が空中に現れた。確かに現れた、が、何も書かれていない。書いてるからどうということはないけど、少し期待外れだと思った。
出てきた時は少し感動したが、後から小恥ずかしくもなって、誰もいないと分かってるのに側の木などを見渡した。
日が昇ってきていて、起きた時よりも辺りは明るくなってきていた。
まだ薄い光を、木の葉達が反射して少し眩かった。
こういう景色が好きだ
この場所の他に、どんな景色が広がってるのか気になってきた。自分の夢なのだから、自分の好きな景色しかないはずだ。
開かれっぱなしのステータスはそこら辺の茂みに放って、立って歩き出した。
素足だったので、硬い野草が少しこそばゆい。
ひんやりした風が、朝焼けに鳴く涼しい虫の声を運んできた。
このまま何処までも行きたいと静かに思っていたら、右手側に見える木から、茶色のズボンが覗いていた。
いきなり森の中でズボンを見たら悲鳴をあげそうだと思っていたが、これは夢だと知っていたので大して驚かなかった。
好奇心のまま、足以外が見えるよう周りながら近づいていると、急にイビキをかき始めたので流石に驚いた。
何だか、兄を思い出す。
俺がたまに深夜に目覚めてしまう理由は、大抵兄のうるさいイビキだった
ひょっとして、これは俺が作り出した夢の兄じゃなかろうか
顔を確かめてやろうと更にグッと近づいて、覗き込むようにして見てやると
そこには、兄の面影を少し落としたような無精髭の
おっさんがいた。いや、目付きが悪いだけで、よく見れば成人してる程度だった
顔に少し土をつけて寝転んでいて、服は頑丈そうな茶色い長袖で分厚いベルトをしていて、ズボンも似たような感じ、ファッションの雰囲気はどこかの鉱夫みたいだった。
夢の中で誰かと話せる機会は、覚えている限り今まで無かったし、覚めたら消えてしまうのだから、まぁ
一言ぐらいは声をかけてやろうと思った。
横腹あたりを手で押してしばらくの間揺らしたが兄は一向に起きない。だから終いには、足裏を兄の手の上に置きあらん限りの体重を一気にかけて、何度もぐんぐんと押してやった。
女になって軽くなったのか、骨に響くような足応えは感じれなかったが、なにかを潰した気がした
「うぉっ」
痛みに驚き、手のひらを振り払いながら兄が起きた。
素足で歩いてきたから、手のひらに少し足跡が付いている
「だ、誰ですかあんた」 と聞かれたので
「弟です」 とそのまま答えた
女が弟ですなんて随分おかしいだろうが、俺が覚めるまではそれも真実の一つだ。
「弟?あんたは女だろうが それより、ここはどこか?」
「いえ、正真正銘弟ですとも。それは真だ。
そして、ここが何処かと聞かれましたが、ここは俺の夢ですよ、ユウ兄ちゃん。」
「ち、ちょっとまて、まさかホントにお前なのか? 弟のセイなのか?なんで夢って分かる」
「いや、俺もここから近場の所で目覚めたら女になってるし、見たことも無い場所だったからさ、これは俺の夢だって気付いた」
「おいセイ、それはおかしな道理を踏んでないか。別に俺の夢だって可能性もある」
「なにィ 意識はこっちにあるんだぞ。俺の夢さ」
「こっちにも意識あるわい。とゆうより、………これは夢の類ではないと思うんだが、ほら」
兄は、さっき俺が踏んだ方の手を見せた。内出血が起きてるのか、手の甲が段々と葡萄色に滲んでいた。
「さっきからな、コイツがクソいてぇ。なぁ、これは夢か?」
「……お前は手がいてぇかもしれないけど、俺は女になってるんだぞ?夢さ夢……多分…」
「おい、セイ。これから言う事を笑うなよ」
力んで真剣に言われたから、俺は思わず緊張して、手を拳に握っていた
「これって、流行りの異世界転生じゃないか?」
笑えなかった。馬鹿な話で終わらせられない
今までが笑わさせてくれなかった 草の感触。地面との衝撃。影や景色の鮮明さ達が
「し…じゃあ、…俺等これからどうなるんだよォ」
涙が出た。視界が夢のようにぼやけた後、涙は落ちて世界は一層美しく見えた。その美しさこそが、決定的であった。
絶対に夢じゃない鮮明さで、このときはまさに残酷な美しさであった
涙が鼻水もくすぐって視界も鼻も緩んできた
前にいる兄からも、微かにぐする音が聞こえた
こんなとき、不意に獣の臭いがした
獣の匂いなんて描いだことは無かったが、脳の奥がそう断定した はっきりと、人の類ではない気配を風が運んだ
嵐の前のように、涙と鼻ずすりはピタリとやんだ
異世界での獣臭
今までの人生で一番不吉な予感がして、体がぶわりとびびった
また、不意に音がした
その方を向く 木漏れ日を、体の割に大きな頭で受ける、汚れた深緑で、黄色な目で見る邪悪がいた