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(三)

「えっ、いいえ。誰にも……」

 楡原(にれはら)久史(ひさし)は、自身が経営する下新倉(しもにいくら)土建の事務所の自分のデスクで、携帯電話に向かってそう言った。

 電話の相手は、松ヶ浦伊之助であった。彼に「取り決めの件、我々以外の誰かに話したか?」と聞かれたのだ。

 楡原は『週刊文潮』の件と言われて、ドキッとしていた。そのせいで、歯切れの悪い答え方になってしまった。まさか文潮の記者と会っていたことがバレたのだろうか。

 いや、そんなことはないはずだ。楡原はすぐにそう思い直した。


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