表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/42

24.賑やかな日々

 その後、ウィルフレッドを取り調べていく内に、彼の犯した別の罪が明らかになった。


 ひとつは、『医者いらず』を下町にばらまき、住人たちを中毒にさせていたこと。そしてもうひとつは、国王に毒物を飲ませていたことだ。


 正確には、毒物ではなく薬の原液――と呼ぶべきだろうか。ネロリア草とティティカをたっぷりと使ったそれは、一時的には劇的に症状を回復させるものの、使用者の心臓に過度な負担をかける作用がある。

 調査の中で手袋を脱がせてみたところ、彼の両手が真っ黒だったことが報告されている。


 シャルウィック邸からは大量のネロリア草とティティカ豆が押収された。

 ネロリア草はもちろん、ティティカ豆は心臓の病にも効く。しかし国王が急死すれば、真っ先に怪しまれるのは薬を提供した自分だ――。そう考えたウィルフレッドは、ティティカ豆を下町の住人たちに与え、その効果を確かめてから、ネロリア草と混ぜて国王に渡していたようだ。


 ウィルフレッド曰く、王が死ねば早く自分が即位できると思った――とのことである。


 すべてを耳にした国王は激怒し、ウィルフレッドは投獄された。もう彼は一生、塀の中から出てくることはできないだろう。


 ――その後、国王はエリーゼとギデオンに謝罪した。自分の見る目がなかったせいで、極悪人を娘の結婚相手にしようとした上、危険な目に遭わせてしまったと。

 けれど、それも無理はないと思えた。ウィルフレッドは狡猾で、国王の前では常に信頼できる右腕を演じていたのだから。


 ウィルフレッドの提供する薬を絶った国王は、その後体調もよくなり、減っていた体重もゆっくりと元に戻っていった。まだまだ、彼が退位する日は遠いだろう。


 ――そして、エリーゼはと言えば。


「何度言ったらわかるんだ! 指は伸ばさない、ピアノを弾くときは猫の手を忘れるな!」

「そんなこと言われても、いきなりできないものはできません! 大体、惚れた相手にはもう少し優しくしたらどうですか!」

「く……っ、口答えをするな!」


 あれからしばらく経った今も、相変わらず、ギデオンの屋敷で世話になっていた。

 国王は、怖い目に遭ったのだからとエリーゼを王宮へ呼び寄せたかったようだが、それはエリーゼが断った。すれ違ったぶん、少しでもギデオンの側にいたかったからだ。


 代わりに一週間に一度、王宮を訪ねて国王とお茶を共にしている。

 国王はいつも優しく、エリーゼの他愛のない話に嬉しそうに相槌を打ってくれ、最近では恋の悩みにも乗ってくれる。


 ――そう。ギデオンが好きなことを打ち明けると、国王は少し驚いた顔をしたものの、全面的に応援すると言ってくれたのだ。


『ただし、結婚するまでハリエットに手を出すでないぞ。もし出したら、余がたたっ斬りにいくからな』


 とのことである。

 それを聞いたとき、ギデオンはなんとも微妙な顔をしながら、こう言った。


『おふたりとも、会話が盛り上がるのは大変結構なことですが、本人が目の前におります』


 賑やかな日常は、もう少しだけ続きそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ