§2.15 バザール②
「まぁ、わからなくてもいいんだ。そういうところもきっとキシリアは好きなんだと思うぜ。」
「また、その話かよ。いい加減つまらないんだけど」
少し怒った様子でロディオンはバーナードの手を払うようにする。バーナードは再びそれとは反対の手に握られていた不思議な形状の飾りを見つめた。
これ以上キシリアのことで話しても埒が明かないと思い、ギュンターさんに用事があるからと適当に理由をつ得て部屋から出た。
(あの飾り、どっかで見たことあるんだよなぁ。ロディオン以外の誰かが持っていたような……)
葉っぱのような模様をしたそのお世辞にもおしゃれとは言えなさそうなそのペンダントの形状と一致するものを記憶の中から探そうと思い、時々中を見るように歩いていた。それが見つかる間もなく、待合室と書かれた部屋に到着したので記憶の探索は一時打ち切りとなった。
「入るぞ。……ジャレッド、お前来ても大丈夫なのか?」
ドアを開けてすぐに派手な白い毛をまとった狼の半獣人が椅子に腰かけていたのが見え、思わず声をかけた。
まだ先の人間の侵攻の時に負った傷が治りきっていないのか、顔には白い布状のものがあてがわれていた。
「問題ありません。こんなものを付けていますが、体の方はちゃんと任務に耐えられる位に回復しています。それに、こんな傷程度で休んでいるわけにもいかないです。」
「まぁ。無茶だけはするなよ。今回も基本的には俺の隊は俺とそれ以外で別れて動き、指揮は基本的に俺が出すが現場のことはジャレッドに任せる。いいな?」
バーナード隊の幹部とは反対の島に座っていた大柄の男とジャレッドの方をチラチラ見ている猿の半獣人の方へ向いて確認をとる。
「俺は構わん。他の隊のやり方にとやかく言うほど傲慢ではない。」
「私もいいですよ、そこのポンコツワンちゃんが仕事してくれるなら、ですけどね?」
ここぞとばかりに、にやっと笑ってジャレッドの方を鋭く見つめた。
「チェイス、いい加減にしろ。お前こそ結局処女一人捕まえられなかったではないか。」
「それは……アルロ隊長が止めなければ、捕まえられてましたよ。」
「どうだか。まぁ、こちらとしては問題ない。いつも通りでいいだろう」
まだ納得のいかない様子のチェイスをさておく様子でバーナードは話をつづけた。
「もうすでに言ってあるが、今回は前の侵攻とラルゴ側からの連絡を受けての護衛任務だ。特に、お前たちのことは外交官連中に入っていないからくれぐれも目立ちすぎないように。ラルゴとは例の件でわだかまりがある分特に市民たちは俺たちに護衛されることはよく思わない。いいな。」
「はい。」
ジャレッドは速く話を続けてほしそうにすかさず返事をする。
うん、とうなづくとバーナードは地図を取り出して、具体的な配置と任務について説明をした。
足も速く、特殊な魔法が多く使えるアルロ隊は町中に隠れて、何か怪しい動きがないかを偵察すること、バーナード隊は壁側の防衛隊と合流し新たに侵入してくる人間たちを食い止めること、バーナードは自分のはんだで基本的に行動することが伝えられた。
「外交官連中って言ってましたけど、もしかしてその中には……?」
「あぁ、ロディオンもいるぞ」
「くれぐれも彼に肩入れしすぎないようにお願いしますよ、何か特別な異能があるらしいですが」
「もちろん、わかってる。わかってるさ……」
自分か昨晩ロディオンに言われたことをそのままジャレッドの言われたような気がして、流石に少し申し訳なさを感じた。
チェイスは窓の外を眺めていた。眉間に少ししわを寄せる。
「ねぇ、もしかしてそのロディオンって子、今日は仕事ないの?」
「そうだが、どうしてわかった?」
バーナードも窓の方を見ると何か考え事をしている様子のロディオンが昇降口前の階段を下りていくのが見えた。すると、突然宿舎前の通りを走りだした。
「どこ行くのかしら」
「もしかすると、何か見えたのかもしれないな」
そう言うとバーナードは、すぐに装備を身に着けて会議を解散した。
玄関を出るとバーナードは、ロディオンを常に視界に入れつつできるだけ人込みを避け、怪しい動きが周りで起きていないかを確認しながら尾行した。
バザールについてあたりでどうやら噴水を目指していると、見当のつき先回りをして待ち伏せた。
(やっぱり、ロキシリアか)
屋台のある通りからふらりと出てきたその女魔人を見つけその近辺を探す。
背中に長い柄のものを布でくるんだものを持ったフード姿の人影を見つけた。
ロディオンがキシリアを見つけたのが見えたとき、そのフード姿が肩方へ手を回しハンマー上の爆破兵器を布の中から取り出した。
魔人からも人間からもかけ離れた素早さでバーナードが噴水前の建物の屋根から駆け出しフード男の上へと跳躍した。
男の首を押さえつけるように派手に着地する。到底魔人一人が下りてきたものとは思えない振動と激しい音が響いた。
幸いまだ武器の方は始動していない。
「痛ぇーー!」
フードの男が悲鳴を上げた。
バザールは一気に騒然となった。
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ではまた