§2.1 冬の朝
「…ううぅ、寒い。」
布団に全身をすっぽりと収めたロディオンは朝の鐘の音を聞きながら、開ききっていない目で窓の方を見る。まだ外は暗く凛とした静けさに包まれていた。
恐る恐る床に足をつけると温度差にビクッと体が震える。
ここで足を引っ込めたらもう一生布団から出られなくなることはわかっていたので、そのまま冷えた床へと体重をかけていく。電灯の方へ指をパチンと鳴らすと暖色系の明かりが灯る。と、机の上に置きっぱなしになっていたケーキの皿を見つけてしまった。朝の水道を特に冷えている。正直洗い物は避けたい時間帯だった。さらに少し残った生クリームをにらみ、ため息をつくとしたなく洗い物をした。蛇口から水を出すと、サーっという音とを立てる。こわごわと手で触れてみる。
「…あっ!ぐゎ!…うぅ……」
冷たいというよりも痛かった。慌てて手を引きさっさと洗い物を始めると、あっという間に終わらせた。ジンジンとする手をパジャマで拭きながら、よしっと気合を入れると、着替えながら買いためておいたパンを机に出し、軽く着替えを済ませるとコーヒーを淹れた。慣れた手つきで朝食の席に着くと、乾いて堅くなったパンをコーヒーに付けて流し込む。
空いたコーヒーカップを洗い終えると、制服のジャケットとその上からコートを着て、空が少し明るくなり出したころに寮を出た。
この前の事件の後、軍の本部で取り調べを受け念のため1週間は安静に過ごせ、と上司から伝えられていたため、(事件に巻き込まれた職員がいることを隠すための休養で、事実上の謹慎処分なのだが…)久々の出勤となった。
(引きこもっていた間にずいぶん寒くなったなぁ)
季節の進み具合に驚きながら、通勤者たちの列に加わっていった。
突然、肩のあたりに重さがかかり前へ、つんのめってしまった。よろけながらもなんとか転ばないように片足で踏ん張る。肩の重みがなくなったことがわかり、後ろを振り返るとツンツン髪の二つ結びの女が右手を挙げて「おっす!」と言い、ニカーっと笑う。朝にしてはまぶしすぎるその笑顔も久々に見るとなんだか安心する。
「ロディオン先輩、またやらかしたんすかぁ?もう、ほどほどにしないとそのうち私のほうが先輩よりも昇進しちゃって、先輩のことこき使っちゃいますよー?」
にやにやしながら大きな声でそんなことを言うもんだから、周りの職員たちの視線集めてしまう。
「ちょっ、ちょ、お前。声デカいっての!朝から一体何なんだよ。」
できるだけ小さな声でツンツン髪に周りの目線にも気を遣ってくれ、というように文句を垂れると、先ほどよりも心なしか大きな声で、
「なんすかぁ、先輩?もっと大きな声で話してくださいよぉ」
と、恥ずかしさのかけらもない様子で続ける。深くため息をつくと、無視するように足を少しだけ速める。
「ちょっと―なんで逃げるんすかぁ」
負けじと足を速めてくる。こんなことを繰り返していると、あっという間に外務省の庁舎へとたどり着いた。
「んじゃ、ウチはこれから明日からの出張の準備があるんで9号館に行ってきまーす。先輩はくれぐれも、やらかさないように注意してくださいねー。」
くるりと回るとそのままロディオンと別れた。嵐が過ぎった後、ロディオンはそのまま1号館へと向かった。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございます!
第2章からは第1章よりもこのお話の世界観を出していきたいと思っています。ぜひ次回以降からも読んでくださると嬉しいです。
少しでも面白いなと思われたら、ブックマークと評価の方、よろしくお願いします。
ではまた