消滅した町 §11 森の木陰にて
「トケークンよ!トケークン!」
4体のオオカミモドキを、シュナイデルとサラディオールの2人だけで、難なく退けたまでは良かった。
その戦いの合間に、お嬢が何かを見たらしい。
エルザは戸惑っていた。
トケークンが何なのか分からない。
お嬢の言うには、妖精族ではないけど、エルフとは仲の良い者たちらしい。
こういう時、半エルフである自分にジレンマを感じる。
差別がある訳ではない。
純潔のエルフ達とヒト族の中で育ったエルザとは、似ている様で、生き様が違う。
まず時の流れが違う。ヒト族はせわしく、エルフたちはのびやかなのだ。
そしてエルフ達にとって当たり前の事を、エルザは知らなすぎた。
「トケークンはウリューンの町にもいたのよ。可愛らしい子たちなの」
トケークンが何者かはドトンタ翁が何か知ってるかもしれない。ウリューンの町にいたと言うのは、重要な情報だと思う。
「それでお嬢、トケークンって何者なんだい?」
マリが尋ねる。
「だからトケークンはトケークンなんだよー。カベチョロさんみたいに壁登り出来るんだよ。知らないの?」
「ごめん、知らない…」
お嬢のガッカリした顔。
「はて?どこかで聞いたことあるかも?」
シュナイデルとサラディオールの治療を終えたクラリスが続ける。
「んー。でも思い出せません。悪い者では無かったはずです」
「エレンディエル、そのトケークンを見かけたのはどの辺です?」
とサラディオール。トケークンは何者かは差し置いて、追跡をする心づもりらしい。
「あの辺よ!」
「痕跡を探します」
「待って、サラディエル君、トケークンは足跡を残さないわ」
「?!?」驚くサラディオール。
「どう言う事だい?」尋ねるマリ。
「トケークンは忍び歩きする時、少し浮くんだよ。それに幽界にも出入り出来るの」
「!?!」更に驚くサラディオール。
「トケークンか。懐かしいの」とシュナイデル。
「知ってるんですか!?」
思わず叫んでしまう。朗報です。
「ああ、トケークンは小柄な蜥蜴人の種族ぞ。妖精戦争の時代よりの同盟種族じゃ。ウリューンの町にも住んでおったと聞く」
「危険は無いのかい?」
「善良な者たちじゃ。あまり争いは好まぬ輩じゃが、一度戦うと決めたなら勇ましい者たちぞ」
「トケークンさんに聞けば何か手掛かりが見つかるという事かしら?」
クラリスの言葉を聞いて、お嬢の顔が喜びで輝く。
「光明がさしてきた様じゃの」
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巨石列柱群の円環の方が騒がしい。
原牛達が移動を始めた様だ。
地響きがこちらまで伝わってくる。
「見通しが立ちそうですし、一度戻りませんか?ドトンタ翁の意見も聞きたいですし」
サラディオールの提案。皆も同意する。
巨石列柱群の円環が近づくと、血の匂いが漂う。
お嬢とサラディオールも気付いた様子。
「嫌な匂い…」
「何か起こってる!急ごう!」
「そうね!急ぎましょう!」
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一際大きなオオカミモドキと居残り組が対峙していた。
何があったのか、あのキホーテン卿が倒れている。
全速で駆け抜けるが、重い防具を付けたクラリス、シュナイデル、マリが遅れる。
お嬢は飛翔の術を編み上げ、先行する。
エルザも飛翔の術を習得していたが、あいにく火球の術を積んでいて枠がなかった。
パブロが重傷を負うのが見えた。心臓を押しつぶされる様な感覚に襲われる。
神父さんが手当てをする。
オオカミモドキが向きを変える。
ジョナサンがヒョイパクされる。
上空からお嬢が魔法の矢の術を編み上げる。
全弾がオオカミモドキに突き刺さる。
雄叫びと共に吐き出されるジョナサン。
手信号でサラディオールが先行するのを素早く伝えてくる。
立ち止まり弓を構える。
野伏卿とオオカミモドキとが対峙する。
その隙に、ドトンタ翁とノリリンタとがジョナサンを引きずっていく。
サラディオールの一撃を驚異的な跳躍でかわすオオカミモドキ。
剣撃で反撃を跳ね除ける。
矢を放つエルザ。貫けない。間合いを取りながら、居残り組の方へ近づく。
サラディオールの更なる一撃。命中。そして雄叫び。
追いついたクラリスは怪我人達の方へ向かう。
続いてシュナイデルとマリも巨大な獣に立ち向かう。
上空からお嬢が雷撃の術を編み上げる。
巨大なオオカミモドキは雷撃に打たれ、ようやく地に伏した。




