消滅した町 §10 野生の王国にて
奇妙な違和感をみな感じていた。
町があったはずの場所に広がる巨石列柱群の円環。
巨石列柱群自体は別に珍しい物ではない。
エルフの里などでは今でも建てられる事があるそうだ。
サラディオール曰く、生活感が感じられないんだそうだ。
人が住んでないのだから当たり前だろうって?
船着場跡や途中の遺跡にはかつて生活していた者たちの歴史が感じられるが、この巨石列柱群には、それがないんだそうだ。
シュナイデルやマリ〜ドワーフ族の2人も違和感を感じていた。
同じような大きさの石が、こんなに大量に存在する事が不思議なんだそうだ。
似たような大きさなのに、加工した痕跡が全く見当たらない、と。
違和感なら俺も感じていた。
こういった遺跡なら普通は野良のゴブリンやらオークやらヒューマノイド型の奴らが往来した痕跡があるものだが、そういったものが見つからない。住み着いた形跡もないんだ。
この事はサラディオールの兄さんも同意してる。
足跡が野生動物のものしか無いんだと。
ドトンタの爺ちゃんもノームの魔法機械を取り出して、なんだかよく分からない方法で調査を始めている。
残りのメンツはパブロの指揮で野営地の設営を始めている。
船着場跡付近の廃屋を利用する案もあったが、巨石列柱群に近い位置に設営することになった。
視界を考えると巨石列柱群の真ん中というのもありそうだが、その案はスルーされた。
奇妙な違和感が警戒させたのだった。
正午前に原牛の大群がやってきた。
樹木の生えぬ巨石列柱群の円環には草は生えていた。
原牛にとっては手頃な牧草地だった。
また群れかよ。
今回は非常食にするの?しないの?
しないって?なんで?
大群でこっち向かってきたら死者が出かねないって?
あ、うん。死ぬのは嫌だよね。
皆で昼食を終える。
お嬢はサラディオール、シュナイデル、クラリス、マリ、エルザの5人をお供に、探索しに行くそうだ。
昔、ウリューンの町を脱出した時のルートを調べたいらしい。
俺はお留守番になった。
野営地の設営も大体済んで、実質休憩になった。
サボってるんじゃ無いぞ。休むのも仕事のうちだからな。
原牛でも眺めながら、くつろぐかな。
ん?何あれ?原牛の群れになんか混じってるよ。
蹄のあるでっかい猪みたいのが数頭。
あとあれも何?
蹄のあるやたらと顔のデカい狼みたいなの。
森の木陰から原牛に忍び寄ってる。
「警戒!大型の獣!視認で1体!」
キホーテン卿が警戒を促す。
「珍しいの。イノシシモドキとオオカミモドキじゃの」
ドトンタ爺ちゃんの解説。
モドキって何?
「どうしますか?イノシシモドキはともかく、オオカミモドキは、狙われると厄介です」とパブロ。
「それよりも、この角度だと原牛の群れがこっちに押し寄せてこない?」とノリリンタ。
ちょ、待ってよ。オオカミモドキさん、今にも襲いかかりそうな気配。
「あれさ、やばくね?もう襲いかかるよ」
「いかんな」ドトンタ爺ちゃん。
襲いかかるオオカミモドキに反応する原牛の群れ!
大挙してこちらへ押し寄せてくる!
「全員退避!」とパブロ。
退避ってどこによ?って走るのかよ。
森の木陰に分け入り、南西側の小高い丘の頂上を目指す。
俺、ドトンタ爺ちゃん、ノリリンタ、パブロ、神父さん…あれ1人足りない。
「キホーテン卿がいないのー」とノリリンタ。
「残ったのか!?」パブロが焦る。
「困りましたな」神父さんは落ち着いてる。
麓に目をやる。
仁王立ちのキホーテン卿。
迎え撃つ気ですか!???
激突!!
吹っ飛ぶ!
え?吹っ飛ぶ原牛?!?
どういうことですか?!
海を割った古代の伝説の様に原牛の群れが2つに割れる。
原牛の群れが去った後には、キホーテン卿とオオカミモドキとが対峙していた。
またこのパターンかよ。
と思ったら、仁王立ちのまま倒れ込む。
やばくね?やばいよね?
「まずい!昏倒しています」と神父さん。
パブロと神父さんが駆け降りる。
続くドトンタ翁とノリリンタ。
ゆっくりとキホーテン卿に歩み寄るオオカミモドキ。
行くのかよ。行くしか無いよな。うん。
前衛パブロだけ?神父さんも行くの?
え?俺たちも行くの?マジかよ。
まずヘイト管理でパブロが前面から剣で一撃を加える。
キホーテン卿に駆け寄る神父さん。何か癒しの奇跡を施している。
他は背面や横面にそれぞれ回り込んでリスク分散。
ノーム2人呪文とか使わないの?
幻術?魔法と違うの?もう使った?
盲目化。うぇーい!
ってあれ?あんまり効いてなくね?
嗅覚で感知してる?マジかよ!
視覚奪ったら幻術効かなくならね?
てへぺろってなんだよ!
ノリリンタさん頼みますよ!
ぎゃああ!パブロがパックンされた!
重傷じゃん!
神父さんがすぐに治療を開始する。
うわ!こっち向いた!
え?俺?美味しくないよ!
ちょ、ま、やめ!
真っ暗!痛い!苦しい!
助けてー!脳筋ー!!




