泉の水精 §2 「これじゃないもん」
林冠で野鳩がはばたいた。
騒めく雑木林の小動物。
林床を駆け回る栗鼠たち。
「なーもー、かえろーぜー。また別の日に来ればいいだろー」
「………」
むすっとした顔のままのオージョ。
脚をぶらぶらとさせながら、地面の小枝や葉っぱを蹴り上げている。
雑木林の方で、物音がする。
色んな小鳥たちがはばたく。
栗鼠たちが樹上へと駆け上がる。
「んーなんかいるー?」
「…どうせウリボウか何かでしょ。ほっときなさい」
瓜坊はマズいだろう。子どもとは言え猪だぞ。
とは言え、こんな人里近くまで猪が降りてくる事は少ない。
でも、野犬の噂もあるからな。
ちょっと気を付けておくか。
背負い袋を漁って、とっておきのやつを取り出す。
ノーム族謹製『音だけ爆竹』。
音だけなので当たっても大丈夫!
去年の秋祭りの時、買っておいたのだ。
物音がした方から何かが小声で喋る様な音が聞こえる。
あれ、なんだ?誰かいるのか?
でも誰も見えないぞ。
きっと何かの動物か鳥の声を空耳ったんだ。
火口箱と灰箱とを準備する。
林床に燃え移らない様に慎重に、金棒と火打石とを打ちつける。
火皿代わりの灰箱に入れた枯れ草に火が灯る。
そおっと爆竹に火を入れる。
物音がした方に急いで駆け寄り、爆竹をひょい投げする。
「えい!」
爆竹が弾ける音が連続する。
森の鳥たちが一斉に騒めきたつ。
「ちょぉっと!?何してるの!?泉の水精が、にげちゃったらどうするのよ!」
「だって猪だったら危ないだろー。脅かして追い払うんだよ」
しばしの間。
「……ふんっ」
オージョはベンチから立ち上がると溜め池の淵まで歩いていった。
溜め池の水面が揺らぐ。
水流が水面を掻き回し、うねりだす。
「なんかいるわ!こっちきて!ピヨッタ君」
「うおおお!」
大きくうねる水面がむくむくと起き上がる。
水面は何かの姿になろうと、蠢く。
やがてそれは人の姿となった。
水で出来た女性の彫像にも見えた。
「うおおおお!ホントにいたんだ!泉の水精!すげーすげー!」
喜ぶピヨッタ。大はしゃぎ。
水の彫像から何か聞こえる。
「……ヶテ………ンパ…」
「なんかしゃべってる!」
「……ンパ……ンデ……ッス」
大喜びのピヨッタをよそに、オージョの顔は暗い。
「ちがうわ」
「へ?」
「これじゃないもん」
「どういう事でしょうか?お嬢さん」
「わたしが見たのとちがうもん!こんな変なのじゃないもん!」
オージョは、そう叫ぶと村へ戻る道へ走り去っていった。
「おい、待てよ!」
ピヨッタは背負い袋を急いで背負いながら、水の彫像にお辞儀をする。
そして、去っていったお嬢さんを追いかけた。
続きます。
『音だけ爆竹』は、ウレタン棒やタライみたいな役割です。




