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狭間の者

作者: 遼太

 私は確かにここにいる。

誰も望まなくとも私は私であり続けたい。

「私は私のままでいたい。」

たったそれだけなのに、皆が私を否定して、社会が私を否定して、世界が私を否定して、私が私を否定した…


 何を探し、何を求め、何を愛して生きればいいのでしょうか。それも分からない惨めな抜け殻には、楽園には決して

たどり着かない愚者の道しか残らない。

 こんなアテの無い虚無の道程に生きている価値が有るのだろうか。答えを探す目の前に、

『アナタはワタシと同じ、虚空の彼方に相応しい人よ。さぁ、共に行こう。』


 その愚かで不気味な笑顔をした仮面を持つ道化は、私の心に橋をかけてくれた。


 「……はい。」

私は差し出された道化の仮面を被った。


 『これであなたも仲間入り♪光でも無く、闇でもない。狭間の虚無で共に行こう。』

私はその言葉の真偽の区別がつかず、不気味な笑顔のままこの道を選んでしまった。


 『誰にも知られず、邪魔されず、ワタシ達だけの楽園を造り上げようよ。』

私と同じ顔の道化は、その手を私の胸に突き刺しどんどん溶け込んでいく。

道化の心が私に流れ込む。

正でもなく、負でもなく、本当意味での孤独な道化の心が…

「…………い、や…違うの…」

私は不気味な笑顔の仮面の中で息が詰まりながらも必死に訴える。

『もう遅いのよ。アナタはワタシ、ワタシはアナタ。お互いがお互いを求めてしまった。』

同じ顔の道化は幸せそうな顔をしている。まるで、大切な何かに出逢えた顔で…

「ただ…私は…」

私の心の何かが溶け、胸の中が熱くなる。そして一言。



 「私は私のままでいたい!」

強い光が胸から溢れ、道化は私の中から飛び出した。周りには金色の天使のような柔らかい翼が私を守っていた。それはまるで道化を殺してしまうほどの強いプレッシャーを放っていた。距離にして5メートル。この空間には私と道化との…まさに明と暗がぶつかりあっていた。


 『………どう、して?』

眩い光景を目の前にしながらも道化は驚くわけでもなく、ただ…侮蔑な目線を私に向けて言った。

「私はどんなに否定されたって、どんなに愛されなくたって、私は私そのものだから!

 確かにアナタを求めたかもしれない。でも私はあそこから逃げたくないの!この気持ちこそが私の気持ちだから!!」

そのとき、仮面にヒビが入り砕け散った。あっという間の出来事に二人の織りなす空間は、大切なものジワリジワリ壊れていくのを感じさせていた。


『…あっ』

道化は初めて私に感情を表した。それは絶望を味わった顔。どうしようもならない真の絶望。仮面の破壊、すなわち決別の証であり決意の象徴。


ポロポロ…

「えっ、私、なんで…」

頬には塩辛い水が止めどなく落ちていた。いくら拭っても止まってくれなかった。


『……お別れだね。もう二度と会うことはないわ。』

私と同じ顔の道化は私と異なる感情で一言告げる。


「どう、して…?」

未だに止まらないものに戸惑いながら道化の顔を見続け不安で胸が苦しく、痛い。


『アナタはワタシ、ワタシはアナタ。それ以前にワタシは存在してはいけない者…

光でも闇でも無い狭間の者にアナタの世界は辛すぎるの。』


「でもあなたが…」


『さっきの言葉、忘れちゃダメだよ。アナタのことなら何処にいても分かるから。』

道化の足が消えて徐々に飲み込まれるように消えていく。


「待って!」

慌てて道化のもとに走るが距離が縮まらない。金色の翼が私と道化を引き剥がしている。答えが見つからないのに消えてしまう…その前にどんな色にも染まらることのできない悲愴な道化を抱きしめたい。


『さよなら…』

はっきり聞こえた別れの言葉、どんな感情にも当てはまらないその声質はたぶん、私にしか理解できないだろう。だってそれは……

立ち止まって大声で言った。

「私はアナタを忘れない!アナタは孤独じゃない!!アナタは私なのよ!!!」

ゆっくりと、本当にゆっくりと道化は最後に、私へ本当の笑顔を見せて…消えた。












 そして、私は起きた。

まだ夜明け前で辺りは群青色の空が広がり、数羽の鳥が鳴いている。

私は近くの高台へ駆け出した。



 高台に着いた頃には汗をかき、空は橙色が群青色の空を侵食していた。うっすら浮かぶ星々も橙色の輝きをこの世界に届けている。

 そして私は夜でも朝でもない世界に向けて大声で言った。

「アナタもアナタのままでいていいんだよ!」

今度は翼でわ無く、強風が後ろから私を突き抜けた。

しばらくして、世界に朝の象徴が現れてしまった。


僅かな時間、夜から朝への狭間の時間…アナタに届いたかな?



『ありがとう』


金色の羽が空から舞い降りて、私と同じ声が聞こえた。


―END―

初投稿です。最後まで読んでくれてありがとうございます。

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