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一人旅  作者: 名鳥 佑飛
7/7

第7話


 良いことがあり過ぎて数日間は冷静になれなかった田村であったが、ようやく目の前の事が見えるようになった。松山には言ってなかったが、自分の恋愛経験は皆無に等しい。幸せに出来るのか…。併せて自分は無職である。これからのことが不安で仕方ない。

 そう思っていると松山から電話が掛かってきた。時間は昼頃、きっと彼女は休憩時間で、自分も休憩時間なら良いなと思ったのだろう。

「もしもし」

「すみません、仕事中でした?」

会話はまだ敬語である。

「…いや、休憩中…」

 ついた嘘を許して欲しいと心の中で思っていた田村は答えた後、少し表情を緩めた。

「明日なんですけど、休みが取れたんで遊びに行きたいなって思いまして」

「明日ですか…仕事がありまして、会うのが夜になってしまいますが、良いですか?」

緩めた表情を変えることなく答えた。

「明日、祝日ですけど仕事なんですね」

「そう…なんですよ…ごめんなさい」

「分かりました、じゃあ一人で観光しますね、それと今度行きたい場所あるんですけど良かったら一緒に行きませんか?」

「行きたい場所?」

「横浜のランドマークタワーか東京の上野公園に行きたくて、一日では無理ですか?」

「…そこはやめといた方が良いと思いますよ」

「えっ、なんでですか?」

「…人が多いんで…」

「そう…ですね…じゃあまた考えときますね」

「…分かりました」

今の会話の中で自分はいくつ嘘を付いたんだろう。休憩中でもない。明日は仕事もない。ランドマークタワーと上野公園も、ただ行きたくないだけだ。

 そんな自分は今、松山と同じ京都にいて、渡月橋を渡っている。いつもは日曜日の朝に渡るが、今日は平日である。ここは自分にとって大切な二人と歩いた場所だ。いつも土曜日に行く金閣寺、伏見稲荷大社、清水寺も同じく。


 近くの嵐山にはお墓が。そこに田村の両親は静かに眠っている。5年前、京都を離れる際に三人で最後に行った場所である渡月橋。それ以降三人では、どこにも行けなかった。

 思えば、田村の一人旅はこの時から始まっていたのかもしれない。しかし、今では新しい大切な人と一人旅を通して出会うことが出来た。

「今は、一人じゃない。」

 田村は両親の目の前でそっと両手を合わせて、これからも安らかに眠られることをいつものように祈り、先程付いてしまった嘘を反省することも祈るのであった…。


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