第6話
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田村は訊いてみたいことを訊くことは出来なかった。代わりに知った情報は松山が東京に来るということであった。そのとき、田村は思った。
「無職になる。会うことが出来る。」と。
田村は思い切って彼女が東京に来る月曜日に会えないかと連絡したが、またしても一人で観光したいという理由で断られた。
一人旅が好きな自分からしたら分かる理由であるため、深く追及はしなかった。
月曜日になり田村はいつもの時間に起きたが、仕事へ行かなくて良いということをすぐ理解した。田村は、その夜行きつけのカフェに行った。いつもより来る時間が早かったためか、マスターの川端にどうしたか、と訊かれた。田村は仕事が休みだと嘘をついた。
すると田村が到着してすぐ松山がカフェに入ってきた。そして、来るや否や彼女は田村にプレゼントを渡した。田村が驚いていると
「開けてみてください」
と。開けるとその中身はコースターであった。田村にとってプレゼントは両親以外貰った記憶がなかったため、とても嬉しかった。
「ありがとうございます、でも…どうしてですか?」
「この間マスターと話してて、専用のコースターがあったら良いんじゃないかって、よく水滴が落ちてしまっていますし、結構長居されるみたいですし
「えっ…ちょっと待って…マスターと知り合いなの?」
「はい、両親と仲が良くて」
そのとき田村はマスターを見た。するとマスターは微笑んでいた。
よく京都へ行く田村と地元が京都の松山、互いに一人旅という趣味を持っているということにマスターは繋ぎ合わせようとした。
以前に、松山が一人でマスターと話していたときに、マスターは田村を写真で紹介した。いわゆる恋バナをしているときに。松山は自分が勤めている老舗の抹茶屋によく来る人であるということが分かった。
興味を持った松山は京都で彼を待ち、出会った。まさしくマスターが互いの一人旅で彼らを繋ぎあわせていた。そんな事実を知らない田村は、松山に訊きたいことを訊いていた。彼氏の有無である。答えは無しで、二人は晴れて付き合うこととなった。
その後、前回マスターに指摘された駅まで送るということも、果たしたのであった。