第4話
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田村と松山が会って以降、田村が京都に行くときは、松山に連絡するようにしていた。田村が行くのは土曜日、松山は基本土曜日はシフトが入っているため、どこかに行くことは出来なかった。日曜日は松山が夕方まで仕事がある一方、田村は月曜から仕事のため2人が会うのは困難であった。そのため、互いに一人で京都・東京まで行き会うようにしていた。
この日は土曜日、田村は京都へ行くため松山に連絡をした。抹茶屋へ行くまでの道中が変わることはない。京都に着き、昼食を済ませ、金閣寺へ、伏見稲荷大社へ…。
そして、清水寺に向かう途中の抹茶屋に立ち寄った。
「いらっしゃいませ!あっ、田村さん!」
店に入ると松山が笑顔で迎えてくれた。田村が注文するメニューはいつもと変わらない。だが、彼の視線は不思議と松山に向いていた。
東京に戻り、月曜日は松山が東京には来なかった。
田村は行きつけのカフェに立ち寄った。
マスターの川端が話し掛けてきた。話し掛けてくる理由は明確だった。
「最近、明るくなったんじゃないの?」
「えっ、そうですか…」
「彼女でも出来た?」
「…いえ」
「この間話してた子なんてどうなのよ?結構お似合いだったよ」
「いや、僕には無理ですよ」
「…そう…、私には良いと思うけどなー」
過去に浮いた話なんてなかった。出会った松山も良い人だとは思っていたが、彼女ではなく友達として付き合うだろうと勝手に決めつけていた。田村には幸せにする勇気がないからだ。
でも、そうやって決めつけてしまう毎に、田村の気持ちの中で松山が離れていく気がして、同時に寂しさを感じた。
田村が頼んだアイスコーヒーを含もうとしたときに水滴が足に落ちることは変わらなかった。それほど深く考えていたということなのか。
水滴を拭こうとしたが、この日もハンカチを忘れてしまい、水滴を拭くことは出来なかった。しかし、目の前に座った時に貰うおしぼりがあることに気付いた。松山と話していたときには気づかなかった。それほど緊張していたのかと田村は思い、店を後にし土曜日を心待ちにしていた。