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最低と恋人6

 正直、後輩たちから離れられたことに安堵していた。

 後輩の気まぐれで襲われる可能性。こちらが警戒していたのは向こうにもバレていただろう。

 それでも後をつけてくる様子もなく、オイスターバーに入ったまま出てこない。


 タバコ一本を吸い終わって、とりあえず大階段があった中央部分へと向かう。


 前回に比べて開いている店が多いが、服飾の区画は似通った婦人服売り場がほとんどで、稀に花屋やアクセサリーショップがある程度。

 香水や化粧品も少しはあるようだったが、店外まで匂うほどの量はないようだ。



 普通に地下街を冷やかし歩くような感覚で通路を歩いていくと、地下街の中央部分に出る。左右それぞれに上階にある店舗へと向かう大階段がある広場だ。

 最も目を引くのは中央部分に吊り下げられたオブジェ。


 タバコのカートンを思わせる直方体を幾つも重ねたような柱だ。箱ごとに動きがあり、はみ出したり回転したりする意味のわからない前衛芸術のようなもの。

 それのてっぺんでゆっくりと回転するものを前回も見ていたが、再度目にして懐の金属板と同じ図案だと今更気づいた。



 大階段を上がってオブジェ上部の金属板を確かめる。タバコのカートン程度の大きさで、集中線上に点はあるが突起はない。裏面には何も描かれてはおらず支柱に溶接されている。


 まるで本物のようだと思いながら、これがどういう意図でここにあるのかと疑問を抱く。


 名刺サイズの金属板は【地下迷宮】と現実を往復できるチケットのようなものだ。

 周囲を見渡してもただの地下街にしか見えず、地下神殿もどきのような金属板が鈴なりになっているところもない。


 懐の金属板と同様に特定の場所に指を添えればどこかに出るのかと思ったが、ぶら下がったオブジェには近づけない。吊り下げている鎖や支柱を辿るとしても、見える限りでは壁から生えており通路はなさそうだ。

 懐から金属板を取り出して見比べていると、階下から声がした。



「先輩ー、ちょっと気ぃ入れたんすけどー」



 通路から姿を見せた、スタンロッドを振りながら恋人を引きずっている後輩に返事をためらう。



「合流する前にヤってないとか、ありえないじゃないっすかー。そのつもりでヤろうとしたのに、どーしてくれんすかぁー!」



 微かに聞こえた声はパンクの謝罪だったのか、途切れてわからない。迷いなく恋人の頭にスタンロッドを叩きつけた姿を見て息をのむ。

 その視線が動いているオブジェを捉え、こちらと目が合った。



「先輩でスッキリしてもいいっすよねぇ!」



 行動そのものは荒ぶっていても、普段と変わらない笑みをこちらに向ける後輩が心底恐ろしいものに見えた。


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