最低と恋人5
案内を兼ねるため後輩に先導させて、地下通路を歩いている。
背後を無言でついてくるパンクは少し離れており、分岐路を警戒しては追いかけてくる。先程の男のように人間狩りを目的にした奴がほかにいるとは思いたくなかった。大差ないものに前後を挟まれている事実は見ないことにする。
後輩もその恋人も、【地下迷宮】に入るために武器になる物を持ってきていた。
ガソリン入りのペットボトルや小型火炎瓶が入っている鞄を肩にかけ、逆手に持ったアーミーナイフを振って笑みを浮かべるパンク。
前を向き直すと後輩は右手のスタンロッドを退屈そうに三拍子に振っていた。オアズケされた犬の尻尾に見えなくもない。左手のアーミーナイフが赤く染まっているので全く微笑ましくないが。
カレーショップに放置されたものが色の源だろう。
地下通路に目を向ければ灰色一色で味気なく、壁のポスターも空っぽだ。
天井付近にある案内看板に、駅名の付いた地下街が記されていたのは三つほど分岐路を越える前。
ようやく現れた下り階段を降りていけば、どこかで見たような場所に出た。
禁煙の飲食店とブランドショップが区画ごとにまとめられた地下街だ。蕎麦屋でタバコを買い損ねたことを思い出し、しばらく蕎麦屋に行っていない気がしてくる。
「ブランド香水っすよね。たしかこの辺にその手の店があったと思うんすけど、手分けして探しましょうか」
「……そうだな。それじゃあ俺は上を探すから、お前らにはこのフロアを任せる。なんなら、そこのバーで楽しんでてもいいぞ」
オアズケを続けられたせいで限界なのだろう。後輩の振る尻尾が時折火花を散らしながら、店頭のノボリや看板を叩いているせいで焦げた臭いがする。
その矛先がこちらに向く前にオイスターバーを指して発散場所を与えてやると、恋人の腕を掴んだ。
喜んで連れて行かれるのを見送り、複雑な気分になる。【地下迷宮】での死傷は現実には無関係だとわかっていても、それを喜んで受け入れる感性は全く理解できない。
それでも求め合う相手が側にいるのが羨ましいと感じる。そんな自分に青臭さと愚かしさと気恥ずかしさを覚えて、タバコで誤魔化したくなった。
次の話からは、また毎晩1時の投稿になります。