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最低と恋人4

 じゃれ合うように振る舞う二人の言葉は聞くに耐えない。



「こいつらも、さっきの男と同じか?」



 咎めるように沈んだ声が出た理由は明白だ。

 再認識させられた、わざわざ【地下迷宮】なんて場所に自ら来た理由。それがなくなったのだと一目で理解させられる痕跡が、身体の感覚さえ狂わせているのを感じる。

 溢れそうな吐き気と鉄を飲んだような重さが、一塊になって喉奥から尻までへばりついているような感覚だ。



「え? ああ。男らはここで女遊びの最中だったんで、楽勝っした。女の方も笑けたっすよ? 助かったと思って泣きながら礼とか言ってて」



 そう言って笑う後輩の言葉に、へばりついていた塊が落ちたのを感じた。


 あのくそったれが泣きながら礼を言うなんて、死んだ猫が生き返ってもありえない。

 男たちに狙われたために似ている他人を【誘引】した可能性を考え、やりそうなことだと思う。


 単に目の前の死体が違うと思い込もうとしているだけかもしれないが、それを盲信するしかできなかった。


 後輩の振る舞いや受け応えは普段のそれとほとんど変わらない。まだ少しテンションが高いせいか言葉が崩れているが、職場でもないのに言葉遣いを整える理由もないだろう。



「先輩もヤり目的っすか? それならこいつヤってくださいって。そしたら二人とも俺ヤりますから」


「ヤらねーよ。それより、あんなところまで移動してたからにはこの周辺は見たんだろ? 地図とか作ってあるのか?」



 明らかに複数の意味が混ざった、後輩が求める目的を受け流す。それでも実物を見れば気が変わるとでも思ったのだろう。

 腰に回した手がタンクトップシャツが捲り上げて、ヘソのピアスと黒薔薇のタトゥーが見えた。


 乗り気でまたダメージジーンズを下ろそうとするのを無視して、地図を書かせようと思いメモ紙やノートを探す。しかしコンビニとは違いカウンター付近にはないらしい。



「なんか探し物すか? 手伝うっすよ」



 懐いた犬のような笑みを浮かべているが、その目的も顔に浮かんでいる後輩を見る。


 断れば問答無用でヤりあいを始めかねない。直前で目的を奪ってこちらを煽るつもりなのも明らかで、どちらも隠そうとしていないのが質が悪い。

 こちらの出方によってはすぐに始められるように自動ドアの前を塞ぎ続けているのもあからさまだ。


 見知った人間を見殺せなかった身としては、望んで殺し合いをしたがる後輩の感覚は全く共感できない。

 それなら一時的にでも餌を下げて、オアズケをした方がマシか。



「……たぶんブランド物の香水だと思うんだが、ありそうな場所があるか?」


「デパ地下っぽいところがあるんで、とりあえずそこはどうすかね。でも先輩、彼女へのプレゼントは実際に店で買って包んで貰う方が喜ばれるっすよ?」



 そんな後輩の言葉に、抱きしめられたまま一言も発していない隣の彼女が肯く。実際に体験したことがあると推察できる、確信に満ちた顔だ。

 だが自分が同じことをする様子を思うと、全身がむず痒くなってくる。



「……そんな艶っぽいもんじゃねえ。野良猫寄せの餌みたいなもんだ」



 頓珍漢な言い訳ではあったが真実でもあった。



「野良猫の餌って! 意味わかんねぇ!」



 恋人に縋り付きほどに爆笑する後輩と、唇を噛み締めながら笑いを堪えて支えているパンク。


 良くも悪くもこの二人はお似合いなのだろう。





週末なので次の話は一時間後に投稿します。

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