最低と恋人3
押し退けられた椅子の代わりに積み重ねられた、三人の男女。
下に積まれている高齢の男性二人は苦悶に表情を歪めていたが、見覚えがあった。社内の【誘引】被害状況調査を行なっていた第三者組織らしい担当官たちだ。
今にして思えばあのときカードリーダーに出し入れしていた金属板は、【地下迷宮】に出入りするための金属板と同じ図案だったように思えた。
不正調査が主目的かと思ったが、所有者の把握も目的だったのかもしれない。そう思っても答えを確かめることはできないだろうと、口よりも大きく開いた喉を見れば一目でわかる。
一番上で仰向けに積まれている女性もまた、既に事切れているのは明らかだった。タイトなパンツスーツは肉ごと切り裂かれており、身体の芯に向かうほど形が崩されている。下腹部から引きずり出された中身が男二人にも撒き散らされていた。
真下に捻じ曲げられた頭の上に座られていたのか、不自然に伸びた首も歪な形をしている。
そして、その女にも見覚えがあった。
「……くそったれ」
呼びかけるように漏れた声に、当然返事は返ってこない。
香水の匂いすらカレーの匂いで消されてしまったのだろう。そっと髪を撫でてもこぼれた臓腑がもたらす異臭しか感じられない。
こんな風にして飯を食っていた後輩の神経が信じられず、食いかけのカレーに目がいく。
食いちぎったような跡がついた、食品売り場で見るような過熱前のレバーがカレーの上に置かれているのが見えて、吐き気がこみ上げた。
そんな様子を気にすることもなく、二人が店内へと入ってきて続きを披露する。
「他の女のを試してみたけど、やっぱり生肝はお前のが一番美味いよ」
「……嬉しい。ね、先輩と一緒に食べる? あたし、二人でメチャクチャにされてみたいな」
「ダメだよ。それは俺だけの楽しみなんだから」
それはどう聞いても正気の言動とは思えなかった。
週末なので次の話は一時間後に投稿します。




