最低と恋人2
慎みがない相手の誘いを謹んでお断りし、地下通路に似た【地下迷宮】の通路を歩く。
小さな長方形のブロックが並んだ通路は歩きやすく、青いグラデーションに染まる壁にはカモメのような鳥の絵がいくつもある。
たどり着いたのはカレーショップだった。店内外に券売機が設置されている、駅以外でもよく見るチェーン店。
ガラス張りで中が丸見えの店内でカレーを食べていた後輩を見つけた。あまりにも日常的な光景に一瞬【地下迷宮】にいることが疑わしくなる。
彼女がガラスを叩くとこちらを見て、スプーンを咥えたまま立ち上がった。自動ドアへと駆け寄りながらスプーンを投げ捨て、掛けていた鍵が開く音がする。
「先輩!? マジに先輩じゃないっすか! なんでこっちにいるんすか!?」
手動で押し開けた自動ドアにぶつかるような勢いで飛び出し、両手を広げてハグをしようとする後輩を喉輪で止める。
それでも飼い主を見つけた犬のようなテンションは下がることなく、こちらの両肩を叩いたり掴んで揺すったりと落ち着かない。左手で左腕を掴んで引きながら脇を潜るようにして背中に回り、マテをされてハグを待っているようなパンクに押し付けた。
「よくやった! やっぱりお前は最高だよ! あとでたっぷりご褒美やるからな」
「う、うん! 喜んでくれて私も嬉しい……。えへへ、もっとぎゅーってしていい?」
テンションが振り切れている後輩と口調や態度がしおらしくなったパンクが、褒めあったりキスしたりと盛り上がる。
それを眺め続けるのもバカらしい。漂っているカレーの匂いに小腹が空いた気がしてきて、二人をそのままに店内へと入った。
コンビニもファミレスもそうだが、【地下迷宮】にある店舗は現実のそれと遜色ない。キッチンに行けばカレーのレトルトが山となっているだろう。
カウンターを乗り越えるのもどうかと思って、潜れる場所を探す。後輩がカレーを食べていた店奥の席に足を運んで、初めてそれが視界に入った。